M-52 毎日新聞 関東版 1999.5.15 青信号渡ったのに小5の息子が交通死 7年前に小学5年生の息子を交通事故で失い、安全な信号機の設置を訴えてきた東京都八王子市の病院職員、長谷智喜さん(45)が近く、活動の記録をまとめた「分離信号機−信号はなぜあるの」(仮題)を出版する。信号を守っても子供が事故に遭うクルマ社会の危うさを浮き彫りにしている。春の全国交通安全運動が20日まで行われているが、長谷さんは「子供の命を守るため、何が本当に必要な交通安全対策なのかを分かってもらいたい」と訴えている。 車社会の危うさ 父が奮闘記出版 八王子 長谷さんの長男元喜君(当時11歳)は1992年11月、登校途中に横断歩道を青信号で渡っていて、同じ方向から左折してきたダンプカーにひかれて死亡した。長谷さんは「青信号で子供を守るのはクルマ社会のルール」と、歩行者の横断中は車側の信号がすべて赤になる押しボタン式「分離信号機」の通学路などへの設置を求める署名運動を展開。しかし、都や警視庁が交通渋滞などを理由に改善に応じなかったため、95年「息子のような儀牲者をなくしたい」と、都などを相手に信号機の管理責任などを問う訴訟に踏み切った。 昨年8月の東京高裁判決でも長谷さんの訴えは実らなかったが「活動の記録をぜひ本にまとめて」と支援者らに勧められ、出版を決意した。事故の状況や両親が取り組んだ交差点危険度調査、裁判記録などを記したほか、同じような青信号の右・左折事故で亡くなった全国の児童4人の母親が手記を寄せた。このうち千葉県市川市の主婦、藤本智子さん(38)の長女麻奈未ちゃん(当時7歳は、94年4月、友達の家へ遊びに行く途中、青信号で横断歩道を渡っていて、安全確認をせずに左折したタンクローリー車にひかれ死亡した。加害者は罰金30万円で罪を償った。智子さんは「子供が安心して青信号を渡れるよう、一日も早く改善すべきだ」と話している。 7月に出版予定。副題の「信号はなぜあるの」は、事故現場にあったランドセルの中から出てきたカードに元喜君がかいていたもので、裏には「信号がないと交通事故にあうから」(原文)と書かれていた。長谷さんは「本が良い意味で一文通安全の教科書になれば」と話している。 【江刺正嘉】 写真=米田堅持写す M-53 毎日新聞 関西版 1999.5 車すべて止める信号を 7年前に小学校5年の息子を交通事故で失い、安全な信号機の設置を訴えてきた東京都八王子市の病院職員、長谷智喜さん(45)が近く、活動の記録をまとめた「分離信号機−−信号はなぜあるの」(仮題)を出版する。長谷さんと同じように、子どもが青信号で横断歩道を渡っていて右左折車に命を奪われた大阪などの4人の母親の手記も掲載、信号を守っても子どもが事故に遭うクルマ社会の現状を浮かび上がらせている。 長谷さんの長男元喜君(当時11歳)は1992年11月、登校途中に横断歩道を渡っていて、左折してきたダンプカーにひかれて死亡した。信号はどちらも青だった。長谷さんは、歩行者の横断中は車側の信号がすべて赤になる押しボタン式「分離信号機」の通学路などへの設置を求める署名運動を展開。しかし、東京都や警視庁が交通渋滞などを理由に応じなかったため、95年、都などを相手に信号機の管理責任などを問う訴訟に踏みきった。 昨年8月の東京高裁判決でも長谷さんの訴えは実らなかったが、支援者に勧められ、出版を決意。事故の状況や、両親が独自に取り組んだ交差点の危険度調査、裁判の記録などを掲載する。手記を寄せた一人、大阪府堺市の松本良美さん(35)は昨年1月、一人っ子の裕人君(当時6歳)を亡くした。 青信号の横断歩道を一緒に、別々の自転車で渡っていて、右折してきたバスにひかれたのだ。良美さんはいまだに横断歩道の前で足がすくんでしまうという。「本名で手記を書くことにためらいはあったが、一人でも多くの人に、クルマ中心の社会の矛盾を知ってほしかった。警察や行政は『信号を守ろう』と言うだけでなく子どもたちが安全に横断できる道路をつくり、十分な捜査をしてほしい」と訴えている。7月に出版予定。副題の「信号はなぜあるの」は、ランドセルの中から出てきたカードに元喜君が書いていたもので、裏には「信号がないと交通事こにあうから」(原文)と書かれていた。【江刺正嘉、磯崎由美】 写真 M54 行徳新聞(毎週金曜日発行) 平成11年6月11日(金) 子どもたちの命を守ってくれる 藤本智子さん(行徳在住) 交通安全に気をつけてという記事を見て、一度、被害者の遺族からの言葉や提言も取り上げていただけないものでしょか。よろしくお願い申し上げます」 −行徳在住の藤本智子さんからの手紙に、話を伺いに行った。 五年前の四月四日…新浜通りの交差点で、歩行者信号青表示の横断歩道を横断していた藤本麻奈未さん(当時7歳9カ月)が亡くなった。「娘の〃飛び出し〃に因るものと言われましたが、信号は青でした。交通事故ではなく、これは交通犯罪です。警察の現場検証などの調書を取り寄せてみて、思いは強くなりました」「娘は皆に横断歩道の渡り方を注意するほど用心深い性格で友だちが交通事故に遭って以来より注意していました。〃子どもイコール飛び出し〃という原因の決めつけに腹が立ってやりきれませんでした」と彼女は言う。 「せめてあの信号が分離信号機だったらと思います。歩行者が青で渡るときに、車の信号が赤であれば…。青は安全だから進めの色。子どもたちがそれを守って、なぜ犠牲にならなくてはいけないのでしょうか」こんな〃交通犯罪〃を、これ以上増やさないでほしい…の思いで、彼女が手記を寄せたのが、この『分離信号』だ。八王子在住の長谷智喜さんを中心に、同じ〃事故〃で犠牲になった子どもたちの遺族の手記が寄せられている。 「小さいころから、青信号は安全だと信じていました。そのころより、車はとても増えています。今の信号でいいんでしようか。交通事故が根絶することはないと思いますが、行政や学校の交通安全教室で教わった通りに、信号を渡っている子どもたちの命ぐらい守ってくれる信号を作ってください…。それを願います」 【写真】 彼女の思い…「分離信号」の草稿 M56 1999年(平成11年)8月9日 (月曜日) 読売新聞 分離信号導入して 青信号で交差点を渡っていた長男がダンプカーにひかれて亡くなった事故をきっかけに、歩行者用信号が青の間はすべての車両用信号を赤にする「分離信号」の導入を訴え続けてきた八王子市上川町の病院職員、長谷智喜さん(46)が、七年間におよぶ活動をまとめた「子どもの命を守る分離信号ー信号はなぜあるの?」を出版した。長谷さんは裁判や独自の研究、調査を通じて、現行の交通行政の問題点を問い掛けている。 活動記録を出版 長谷さんの長男、元喜君(当時十一歳)が事故に遭ったのは、一九九二年十一月。登校中、T字型の交差点を横断中、後ろから左折してきたダンプカーにひかれた。「なぜ、青信号に従った子供が犠牲にならねばならないのか」「歩行者と車両が交錯しながら通行する信号では、事故はなくならない」。そんな憤りや疑問から、押しボタン式の分離信号の導入を訴える写真展や二万人を超える署名運動を展開。九五年には、信号機を管理する都を相手取り、「分離信号を導入していれば、事故を防げた」として損害賠償を求めて提訴した。高裁まで争ったが昨年八月、一審に続き訴えを棄却された後、これまでの経緯を本にしてみたら」と支援者に勧められ、執筆を決意した。 完成した本はB6判、六章構成で三百三十八ページ。元喜君の事故の経緯を再現した上で、同様の事故で亡くなった子供たちの実際の事故処理で、「加害者のみの言い分で調書が作成されている」と捜査の問題点を指摘した。独自の交通量調査などに基づいて様々な型の交差点の危険性を検証し、ドライバーの注意力に頼る現行の信号の欠陥を訴えた。「時にはあきらめの気持ちが頭をもたげる時もあったが、元喜に『お父さん、危険な交差点を渡らなきゃならない子供たちを助けてよ』と言われているような気がして、運動を続けてきた」。長谷さんはそう振り返る。次の目標は、分離信号をテーマにしたホームページを開設することだ。定価千八百円。間い合わせは生活思想社(03-5261-5931)へ 【写真】 本を手に「車優先の現在の交通環境をもう一度見直してほしい」と話す長谷さん M57 1999年(平成11年)8月11日(水曜日) 朝日新聞 多摩版 歩行者と車用の信号 同時に青・・・長男 事故死 八王子市の夫婦が、長男の事故死をきっかけに、車両用信号と歩行者用信号を同時に「青」にしない「分離信号」の設置拡大を求めている。交差点の危険性を独自に検証し、これまでの活動を紹介した本「子どもの命を守る分離信号」を出版した。息子の死の意味を間い続けてきた夫婦は、繰り返し訴える。「信号を改善するだけで子どもの命が救える」と。 八王子の長谷さん夫妻 交差点の安全性訴え 一九九二年十一月。小学校への通学路を、妹と一緒に歩いていた八王子市上川町の長谷元喜君(当時11)は、自宅から八百メートルの「上川橋交差点」で、左折するダンプカーに巻き込まれて即死した。横断歩道の信号は青。ダンプカーからみた車両用の信号も青だった=図。 病院に務める父親の長谷智喜さん(四六)と妻かつえさん(四六)は、青信号で横断していた息子の事故死に対し、警察が結論づけた「ダンプ運転手の不注意」との判断に、疑問を感じた。仕事の合間、現場の交差点で通行量を調査したのを手始めに、過去に事故があった別の交差点でも、車と人の通行を調べ、信号の運用方法を交差点ごとに実地で分析した。長谷さん夫婦は様々な事故例から、同じ方向から進む車両と、歩行者の信号が同時に青になる「非分離信号」には、危険性が大きいとの結論を得た。スクランブル交差点に多く採用されているような、車を全部止め、歩行者を横断させる分離信号を導入すべきだ。 本では夫婦が集めた事故例やデータを、豊富な図表で紹介している。自分たちの体験や同じ悲劇を経験した被害者の遺族の証言から、「生きている加害者の言い分に偏りがちだ」と、警察の交通事故処理のあり方にも疑問を投げかけている。元喜君の死から七年。上川橋交差点の信号は当時のまま運用されている。長谷さんは、晴れない表情で言った。「渋滞の原因になるからと、行政は分離信号の拡大をためらう。だが、人の命を守ることより大事なことがあるんだろうか。悲劇を繰り返さないために息子達の死を無駄にしないでほしい」 本の問い合わせは出版元の「生活思想社」(03-5261-5931)へ 「この7年間、信号のことばかり考えてきた」と、元喜君の霊前に出版した本をささげる長谷智喜さん=八王子市の自宅で M58 北海道新聞 1999年8月13日 朝刊一面 卓上四季 毛布の掛かった「物体」が現場に着いた長谷智喜さんの目に真っ先に飛び込んできた。すこし前、ランドセルを背に、勢い良く飛び出していった長男、元喜君(11)の、それが変わり果てた姿だった ▼事故は七年前の十一月、東京・八王子市郊外の通学路で起きた。自宅から目と鼻の先、息子は青信号で横断歩道を渡っていたときT字型交差点で突き当たって、左折したダンプにはねられた。病院事務員の長谷さんは状況をくわしく知りたいと思った ▼各種証言から青信号だったこと、ダンプがウインカーを出さずに曲がったことを突き止める。青信号で渡ったのに、なんで息子は殺されなければならなかったのか。これでは短銃に一発込めた弾で人が死ぬ、ロシアンルーレットのようなものではないか。 ▼注意だけで事故は防げない。むしろ同じ信号で、右左折する車と人が交差するシステムに構造的な原因がありそうだ。スクランブル交差点のように、人だけ青で渡れる「分離信号」を押しボタン式にすれば息子の事故は起こりようがない。長谷さんはあちこち交差点を調べ、トラックに乗って考えた末、この結論に達した ▼警察に二万人の署名とともに要望書を出したが、ラチがあかない。仕方なく八王子地裁に東京都を訴えた。結果は請求棄却。控訴した東京高裁でも言い分は認めてもらえなかった。 ▼長谷さんは一部始終を「分離信号」の題で生活思想社から本にまとめた。 親の心を分かろうとしない行政と司法。悲惨な事故は、まだ続く。 M61 聖教新聞 11.9.8 書評 Topics 話題 子どもの命を守る分離信号 長谷智喜著 青信号で横断歩道を渡っていた時、左折(または右折)してきた車に身の危険を感じた、という経験は誰にもあるだろう。もし、運転手が脇見してたり、何かに注意を奪われていたら一一そう考えると慄然とする。 本書は、7年前、青信号横断中の小学5年の息子を左折してきたダンプにはねられた父親(八王子市在住)が、我が子の死をきっかけに、現在の交通行政に疑問を感じ、同様の事故を調査。歩行者と車両を同時に交差点に進入させない「分離信号」設置の必要性を訴えたものである。 青信号は決して安全なものとはいえない。人間の注意力は不確実なものである。歩行者がいかに交通ルールを守っていても、向かってくる鉄のかたまりから身をふせぐすべはない。現在の信号システムの恐ろしさに気づいた著者は、文献をあさり、また各交差点の通行量や歩行者の数、大型車の殺傷力や死角を調査。類似事故の比率を確かめた。やがて分離信号の必要性を訴えた写真展を開催。多くの賛同・共感の声を得て、分離信号設置の要望書を警察に提出。だが回答は「分離信号は交通ルールになじまない」。スクランブル交差点をはじめ、分離信号はあちこちに存在しているのに。 ついに著者は東京都を提訴。地裁・高裁とも「必要性なし」と棄却した。あたかも人命より交通の効率を重視するような結果に、著者は、交通事故死は「構造死lと批判。今も運動を続け、仲間や理解者の輪を広げる。その仲間の働きから、今年、船橋市議会での分離信号設置促進可決という成果も生まれた。草の根の運動で安全な社会をつくろうという息吹に満ちた書だ。(信) ●生活思想社1800円 M63 佐賀新聞 書評 11.9.22 子どもの命を守る分離信号 通学路の横断歩道を青信号で渡っていた小学校五年生の息子が、ウインカーを出さずに左折してきたダンプにひかれて即死した。車も「青信号」だったので、わが子を殺した運転手の過失度は驚くほど低い。両親は各地の同様の事一故現場を調査し、このような”理不尽”な事故防止には、押しボタン式やスクランブルなど「分離信号」の安全度が高いことを知る。手作りの写真展や署名活動、裁判を通じて分離信号設置を求める活動を広げるが、車両効率優先の行政と交差点の構造的欠陥を致し方なしとする司法の壁は厚い M65 アサヒタウンズ 1999年10月2日 土曜日 BOOK 書評 七年前、青信号の横断歩道上で左折ダンプによって、当時小学五年の長男を奪われた長谷智喜さん(47=八王子市上川町)が著者。 わが子の犠牲 信号機改善を 長谷さんは、妻のかつえさんと「歩行者事故防止研究会」を作り、多摩地域を中心にいろいろな交差点を調査、危険な交差点では歩行者横断中は、車の流れを赤信号ですべてストップさせる「分離信号」を提唱し続けてきた。「青信号事故から子どもを守るのは、息子を襲った凄惨な現実から目をそらさず、正面から事故を見つめ直すことだと思った」 八王子警察署への要望書、警視庁の担当者との面談、二万人をこえる署名とともに提出した再度の要望書も、手応えなし。信号機を管理する東京都の責任を求め、地裁八王子支部、東京高裁への訴えもすべて棄却された。 いくつもの大きな壁に阻まれながらも、長谷さんの分離信号運動は、いま社会問題として認知されつつある。今までの車優先の道路行政に疑問を持つ人、NOという人たちか着実に増えてきた。船橋市議会では、今年六月「通学路の交差点のスクランブル化促進」の陳情が可決された。「たくさんの人にこの運動は支えられてきた。運動の灯をともし続けることが私のできること」と長谷さん。分離信号のホームページを十二月には開く予定だ。四六判三百五十ページ 03-5261-5931生活思想社。八王子駅北口のくまざわ書店、石森書店楢原店、四谷店で取り扱い中。 M66 11.10.26 読売新聞 12版 「待ち時間」長くなるが・・・ 【写真1】 八王子市 元本郷交番前交差点 「分離信号」は、全く普及していないわけではない。その代表例は歩行者が斜めにも横断できるスクランブル交差点だ。 一般的な信号は、車両用が青になると同方向の歩行者用信号も連動して青になり、右左折の車両が人と交錯する場面が生じる。これに対して分離信号は、歩行者信号が青の時は、車両用信号はすべて赤で、人と車の交錯をなくそうというもの。安全性が高まる反面、信号の待ち時間は車両、歩行者とも長くなる。 警察庁によると、スクラン分離信号という特別な「施設」はなく、あくまで信号の点滅をどう運用するかという問題だという。だから「全国で何か所あるか把握していない。運用については、各地域でその道路の事情を判断して行ってもらっている」という。 分離信号にするかどうかは、都道府県の警察の判断になるが、「分離信号を増やさないという方針はない。ただし、分離式にすることでかえって交通の流れを妨げ、事故を誘発しかねない場所もあり、安全も含め総合的な視点から判断している」(警視庁)など、慎重なところが多い。 それでも、事故防止の観点から分離信号を取り入れる交差点が、各地で少しずつ増えている。埼玉県警では数年前から、徐々に分離信号を増やしてきた。「歩行者の死亡事故の有効な対策」が理由だ。昨年9月には県内10か所の交差点を一気に分離信号化、スクランブル交差点も含めて県内41か所の交差点が分離信号となった。このうち同県北川辺町の丁字路交差点は、地元住民の要望が実現した例。通学時間帯に約250人の中高校生が利用しており、右左折の車に巻込まれそうになり、ひやっとすることもあったという。分離式になったのを機に、小学生の通学路にもなった。同県警では、「待ち時間が長くなっても、右左折が歩行者に遮られなくなり、車の流れはかえってスムーズになっている」と、「分離」の効果を説明する。 歩行者の安全を優先する交通実現の提言を続ける「クルマ社会を問いなおす会」の代表、杉田聡・帯広畜産大教授は「横断歩道での事故が何回も繰り返し起きているということは、道路や交差点の安全性自体に問題があるということだ。人間の注意力や良心に頼り過ぎた現在の交通システムを抜本的に見直す時期に来ている」と話している。 読売新聞11.10.26 12版 生活スコープ ワイド版 左紙面 事故防止に「分離信号」 交通システムを見直そう 市民運動もスタート 【写真2】「なぜ青信号で、という思いが今も消えません」という長谷智喜さんとかつえさん 青信号の横断歩道で歩行者が右左折の車両に巻込まれ、犠牲となる事故が後を絶たない。左折ダンプの事故で長男を失った両親が裁判や本の出版を通して、歩行者の横断時に交差点の車両をすべて停止させる「分離信号」の導入を訴えている。歩行者を守る立場から信号のあり方を見直そうという問題提起で、同様の動きが各地で活発になっている。(林栄太郎) 左折ダンプにひかれ 東京・八王子市横山町の丁字路交差点。車用の信号がすべて赤になり、車が停止した。少し間があって3か所の横断歩道の信号が全部青に変わった。「あの交差点が、ここと同じ分離式の信号機だったら、きっとあの事故はなかった」右左折の車にせき立てられることもなく道路を渡る歩行者見ながら、同市に住む病院職員長谷智喜さん(46)は残念そうに話した。 7年前、小学校5年生だった長谷さんの長男元喜君は通学途中の丁字路で青信号の横断歩道を渡っていて、後ろから左折してきたダンプカーにひかれ、亡くなった。運転手も青信号で入ったが、元喜ちゃんを見落としたという。「運転手の過失ということで事故は処理されたけれど、どうにも納得できなくて」と、長谷さんと妻のかつえさん(46)。 二人は交通事故に関する本や新聞記事を読みあさり、元喜君と同じような事故が少なくないことを知った。遺族を訪れて話を聞いたり、事故現場で、交通量や車と人の動きなどを調べたりした。通常の交差点では、青信号で歩行者が渡っている横断歩道を、左折車や右折車が一時停止もしないで突っ切っていく場面が目についた。歩行者は青信号でも、曲がって来る車に気が抜けない。幼い子供は、青信号で車が右左折する動きをなかなか理解できないようで、左右への注意力が足りないことにも気が付いた。「信号をよく見て渡ろう」と元喜君に教えてきたことが通じない実態に強いショックを受けた。 「信号の構造そのものが事故につながっているのではないか。このままでは同じような事故がまた起きる」。そう考えた長谷さん夫婦は、元喜君が事故に遭った交差点を、歩行者が横断中は全方向の車両を停止させる「分離信号」に改善するよう、東京都と警視庁に求める署名運動を行ったが、「交差点の状況からみて、渋滞の恐れがある」などの理由で受け入れられなかった。4年前には、都などを相手に信号の管理責任を問う訴訟を起こしたが、昨年8月、一審に続いて東京高裁でも訴えは棄却された。 それでも長谷さんは今年7月、分離信号の重要性を広く知らせたいと、これまでの活動を「子どもの命を守る分離信号」(生活思想社)という本にまとめた。神奈川県では昨年、「信号や交差点を改善して事故を減らそう」という市民運動が始まった。「交通行政市民オンブズマン」(神奈川県横須賀市)だ。代表の工藤昇弁護士が、交通事故の裁判を担当した経験から、道路自体の欠陥で事故が起きたケースが意外に多いと発足させた。信号が見にくかったり、歩行者が死角になったりする交差点を調査して行政に改善を求め、インターネットのホームページや電話相談「危ない道路110番」などを開設している。 「各地に私たちと同様の組織ができれば、交通システムのあり方を『人間優先』に変える力になる」と工藤さんは話している。
【※】朝日出版情報欄で多くの書籍と共に下記の生活思想社出版物が情報紹介されました
1999年(平成11年)10月27日 朝日新聞 朝日出版情報 ここに掲載の出版物の購入は最寄りの書店にお申し込みください。また、内容・入手方法など不明な点は「出版社テレホンガイド」欄をご利用の上、出版社に直接お間い合わせいただくか、往復ハガキか電話で下記まで(9時〜17時)。なおその際には、掲載された日付、出版社名、書名、著者名を明示してください。 ■〒101‐87l0 東京都千代田区神田駿河台4-3 ■〒162-0813 東京都新宿区東五軒町6-24 またここに掲載の出版物は、八重州ブックセンタ、三省堂神田本店両店に特設コーナーを設けて展示販売をしています(一部未刊のものを除く)。また、両店とも各部門の棚にも品ぞろえしてありますので、ご来店の折りには、あわせてご利用ください。なお未刊や売り切れのものは書店にお申し込みください。 ●価格表示についてのご注意この欄に掲載された出版物の価格には、消費税込みのものと、そうでないものがあります。ご購入の際は書店、または出版社にご確認ください。この欄は毎月1回掲載されます。次回は11月下旬の予定です。 BOOK asahi・com http://book.asahi.com 1、本紙で紹介された書評を紹介! アサヒコムからもアクセスできます M70 ジャフメイト 1999年12月号 本(ノンフィクション) 評者 守一雄・信州大学教授 書評 子どもの命をまもる 分離信号 信号はなぜあるの? 長谷智喜著/生活思想社 青信号に消えた命 信号のある交差点で右折や左折をしようとして歩行者や自転車にぶつかりそうになり、ひやっとした経験がないだろうか? 著者のお子さんも、青信号で交差点を横断中に、左折してきたダンプカーに轢かれて死んだ。小学5年生だった元喜君は「信号はなぜあるの?」「答え 信号がないと交通事こにあうから」という自作のなぞなぞカードを作っていたという。 しかし、信号があっても交通事故に遭ってしまったのである。深い悲しみを来り越える中で、著者がたどり着いた結論は、青信号で渡っていても交通事故に遭ってしまうような「ニセ青信号」を改め、人と車とを完全に分離して通行させるような「分離信号」方式にしなければいけないということであった。スクランブル信号や、歩行者用の押しボタン信号はすべての車を止めて、人だけが連路を横断する「分離信号」である。通常の交差点でも信号機のサイクルを変えるだけで「分離信号」にすることができる。すべての交差点を分離信号にすれば、歩行者の交通事故は激減するはずで、こんなことに今まで気づかなかったのが不思議なくらいである。ドライバーとして、歩行者として、そして何よりも子どもを持つ親として、すべての交差点が一日も早く「分離信号」になることを強く望む。 事故以来「青信号を渡る子どもの命は守りたい」と歩行者事故の実態を見つめ続ける著者は、繰り返し起きる青信号事故を「行政が容認する構造死」と厳しく批判する。また分離信号運動中の中で「歩行者事故防止研究会」を主宰する (税別1800円) 1999.12.10 MRI会情報号 Vo1.2 情報号No12 子どもの命を守る 分離信号 紹介 青信号の横断歩道で歩行者が右左折の車両に巻き込まれ、犠牲となる事故が頻発している。こうした事故を防止するため、歩行者の横断時に交差点の車両をすべて停止させる「分離信号」の導入を訴える動きが、犠牲者の家族を中心に全国的に広がっている。 左折ダンプの事故で長男を失った都内の両親は、裁判や『子どもの命を守る分離信号』(生活思想社)の出版を通して、「分離信号」の導入を訴えている。また、神奈II県では98年、交通行政市民オンブズマン(横須賀市)によって、「信号や交差点を改善して事故を減らそう」という市民運動が始まっている。こうした運動を背景に、「分離信号」を取り入れる交差点が各地で増えており、埼玉県警では98年9月に県内10カ所の交差点を分離信号化した。 讀賣10.26 写14 写真14 生活思想社 著書 子どもの命を守る分離信号 サイトマップへ |