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平成12年12月26日火曜日 毎日新聞 朝刊1面

      
 
「歩行者優先の信号大幅増設」
 〜右左折車から保護 通学路重点的に〜
警察庁が方針

            

警察庁は25日、歩行者が青信号で横断中に右左折車が横切らないようにする「歩車分離式」信号機を大幅に増やす方針を明らかにした。青信号で歩行者と右左折車を同時に通す信号機で、子供やお年寄りが右左折車にひかれる事故が後を絶たないため、専門家による調査委員会で普及策を検討する。来年6月にまとめる報告書をもとに指針を作り、全国の公安委員会に通達する方針だ。車の円滑な流れを優先してきた政策を、歩行者保護の方向に転換するもので、今後の交通行政に大きな影響を与えそうだ。
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警察庁はこれまで、スクランブル式や分離信号の交差点を増やすことについて、@渋滞を招くA信号停止の回数増加でドライバーがいら立ち、事故が起きやすいなどの理由から消極的だった。

しかし、同庁などが所管する財団法人「交通事故総合分析センター」が1995〜99年の5年間で、車両(2輪車を含む)が信号交差点で右左折した際に横断中の歩行者と事故を起こしたケースを分析したところ、右折車との衝突で死亡した歩行者は全国で計586人、左折車による死者は113人に上った。
右左折車による横断歩行者の死傷者総数は99年で10412人に達し、95年(8495人)に比べて2割増えている。

一方、同庁が都道府県警を通じて調べたところ、全国にある約16万9000基の信号のうち、全方向の車両を止めて歩行者を横断させる「スクランブル」方式が715基、歩行者が横断した後に右左折車を通す「歩車分離」方式は479基しかなかった。

こうしたことから同庁は「交差点事故を減らすためには車の通行を優先する政策を根本的に見直す必要がある」(交通局幹部)との反省から、人と車が交差しない信号システムを本格導入する必要が
あると判断した。すでに今年10月、交通工学の専門家21人による「横断歩行者の安全確保のための調査研究委員会」(委員長、久保田尚・埼玉大大学院理工学研究科助教授)を発足させた。

同庁はスクランブル式の信号は「渋滞が激しくなりかねない」としており、歩車分離式の信号を増やしていく。まず小中学校の通学路から重点的に設置してゆく方針で、調査委では、道路の幅や車線数など
道路形状に合わせた分離信号システムの具体的な設置方法を研究中だ。

                        【江刺 正嘉】


平成12年12月26日火曜日 毎日新聞 朝刊社会面

    「歩車分離」推進 警察庁方針
     最愛の息子の命奪った青信号
     「歩行者守れ」訴え続け

「車優先の環境で起きる理不尽な事故が減るきっかけになれば」8年前、小学校5年の息子を交通事故で失ったことをきっかけに、歩車分離信号の設置を訴えてきた東京都八王子市の病院職員、長谷
智喜さん(47)は、警察庁が分離信号を推進させる方針を決めたことに期待をにじませた。「青信号で横断歩道を渡る人を守るのは国の義務ではないのか」という長谷さんの素朴な訴えが、国のかたくなな姿勢をようやく変えようとしている。

【江刺 正嘉】

署名運動、出版・・・実る
長谷さんの長男元喜君(当時11歳)は1992年11月、登校途中に横断歩道を渡っていて後方から左折してきたダンプカーにひかれ死亡した。
長谷さんは悲しみの中で元喜君の事故について考え続けた。ある日、元喜君が背負っていたランドセルから見つかった手作りのなぞなぞカードが目に留まった。「信号はなぜあるの」との質問に「信号が
ないと交通事故こにあうから」と答えが書いてあった。「青信号で人と車を同時に通す危険な信号機こそ事故を招いた」と長谷さんは思い至り、歩行者の横断中は車を右左折させない歩車分離式の信号機の設置を求める署名運動を始めた。

都や警視庁が交通渋滞を理由に改善に応じなかったため、95年には「息子のような犠牲をなくしたい」と都などを相手に信号機の管理責任などを問う訴訟に踏み切った。

東京高裁は98年8月「運転手の注意で事故は防げた」として都の責任を否定したが、長谷さんはその後の活動記録をまとめた「子どもの命を守る分離信号」(生活思想社刊)を出版し、学校での講演や
自らのホームページ(http://www05.u-page.so-net.ne.jp/kb3/t-hase/)
で分離信号機の大切さを紹介してきた。新聞で横断歩行者が右左折車の犠牲になった記事をチェックし、現場に足を運んで交差点の実態を調べるのもライフワークだ。訪れた現場はすでに70ヵ所に上がる。

今、長谷さんの住む八王子北部では元喜君の事故の時と同じようにダンプカーが採石場を行き来する光景が日常化している。自宅の周辺には少しずつ押しボタン式の分離信号機が増えてきたが、元喜君が事故に遭った「上川橋交差点」は昔の信号機のままだ。

長谷さんは、「警察もメンツがあるんでしょう」と苦笑するが、「一定の事故が起きる道路構造を容認しながら、ドライバーの注意力で事故は防げると”建前”を言い続けてきた警察がやっと危険性を正面から認め
てくれたような気がする」と評価する。
「事故現場を徹底的に研究し、被害者の声も聞いてぜひ事故防止に役立つ信号システムをつくってほしい」。長谷さんは大きな期待を寄せている。

ー写真ー
元喜君が事故にあった交差点に立つ長谷さん(右下は長谷さんが元喜君を供養するためにつくった地蔵)


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