第9回口頭弁論調書(原告証言)
 平成9年5月22日

平成7年ワ第2608号 第9回 口頭弁論調書

証人調書  速記録

期日    平成9年5月22日 午前10;30分

場所    東京地方裁判所八王子支部民事第三部 401号法廷

裁判長   宇田川 基
裁判官   尾立 美子 
裁判官   浅田 秀俊

書記官   大野 裕之

本人調書  証人 原告 長谷智喜

原告ら代理人(古田)

1  本件の事件について、あなたは原告でごいざいますね。

    はい。

2  被害者とあなたとの関係は、どういう関係になりますか。

    私は、被害者の実の父です。

3  東京都を相手に、今裁判を起こしておりますが、その問題は信号機の設置の瑕疵の問    題でしたね。
 
    そのとおりです。

4  信号機のことを聞きますが、本件信号は、一現示、二現示という聞き方をしますと、   その中では何現示になるんでしょうか

    二現示式の信号になります。

5  二現示というのはどういうものか、簡単にあなたが知っている限りのことを説明して   下さい。

     私も、初めて信号を調べて現示という言葉をしったんですが、十字路の交差    点の場合、例えば横に一現示に車を流し、そしてまた縦にもう一現示、よう    するに二現示目を流します。この縦横、縦横の繰り返し、一、二、一、二の    繰り返し、これが二現示方式の信号機です。

6  そうすると、本件の上川橋の交差点は、二現示ということになるんですね。

    はい、そうです。

(甲第11号証の写真@を示す。)

7  これが、この問題の事故の発生した交差点ですね

    はい、そうです。

8  この下に図面がありますが、この図面の作成者は、あなたですか。

    私です。

9  この下の図面のどちらかに、あなたのおうちがあるんでしょうか。

    この下の図面の右側、八王子方向です。

10 亡くなったあなたの息子さん、名前は何とおっしゃいました。

    長谷元喜です。

11 元喜君は、ここの交差点の、どこからどこに向かって歩いていたわけですか。

    図面で言えば右側から左側、学校に向かって歩いていました。

12 この図面で言うと、道路の右上ですか、下ですか。

    道路の下ですね。

13 上の@の写真で言えば、このうち手前から。

    ちょうど正面の横断歩道です。

14 その後、いろんな調査をしたと思うんだけれども、元喜君はどういう信号に従って歩   いていたわけで すか。
 
    青信号に従って歩いていました。信号待ちをしてから後、青信号に変わった    ものを確認して、歩いていました。

15 本件加害車両は、どちらからどちらに向かって走っていたわけですか。

    加害車両は、元喜の後ろのほうに止まっていて、後ろから左折、左側のほう    に走ってきました。

16 下の図で言えば、「八王子市街」と書いてある方から左折して、「美山方面」と。

    はい、そうです。 

17 後に調査したことによれば、この車両は、信号に従って走っていたんですか、信号に   従っていなかったんですか。

    もちろん信号に従って走っていました。

18 そうすると、車の信号も青で、歩行者の信号も青で事故に遭ったと。

    そうです。

19 で、今証人が説明した二現示というのは、この上の信号の写真で見ますと、上下です   か、八王子から五日市方面への進行、ないしは五日市から八王子方面への進行が一現   示で、美山方面から八王子もしくは五日市方面が二現示だと、そういうことですね。

    はい。

20 本件事故が発生した原因は、端的にどこにあると思いますか。もちろん加害者の過失   はさておいて、本件は、信号について話をしているわけですけれどもね。

    信号に絞れば、当然青と青で歩行者と車を交差させるこのこと自体が問題だ    と思ってます。

21 そこで原告であるあなたは、この信号を三現示にすべきであると、ないしは前から三   現示方式にすべきであったというふうに主張してますね。

    はいそうです。

22 三現示になると、どういうことになるんでしょうか。 

    ここに、歩行者の横断する時間を与えることです。

23 でも、歩行者の横断の時間は与えられていますね。

    それは、車を左折させて、交差させながら与えられているだけです。

24 そうすると歩行者の渡る時間を与えるという意味は、どういう意味ですか。

     車を全部止めて、一度歩行者のための一現示を増やす、つまり三現示の信号    にするということです。

25 歩行者がすべてここで渡れるように、横も縦も。

     別に、その交差点の状況によりですが、斜めに渡れようが、それをただ縦と    横だけに しようが、それはその現場の状況によるものだと思います。

26 そうすると、車が二方向に走ると、縦と横に走ると、それを二現示とすれば全く別    の、歩行者のための専用の信号を設けて、それを三現示にすべきだとそういうことで   すね。
 
    はい、そうです。歩行者の時間を設けて、三現示にすべきだと思います。

27 それに対して、被告の都がいろいろ言っておるんですが、あなたは自分の準備書面の   中で、それに関して、押しボタン式三現示信号にすべきであった、ないしはすべきで   あると主張しているんですが、まず、押しボタン式三現示というのは、どういうもの   ですか。

    押しボタン式信号というのは、歩行者が、自分が渡りたいときにボタンを押    して、三現示目を作るということです。

28 車の運行は自動的な運行に、信号のシステムどおりにして、三現示目の歩行者に関し   ては、歩行者が押しボタンを押すことによって、車を排除する時間を作ると、そうい   う趣旨ですね。

    はい、そのとおりです。

29 その主張を、今、本件でしてますね。

    はい。

30 それは、どういう理由でそういう主張をしているわけですか。単なる三現示ではいけ   ないんですか。

     単なる三現示ですと、車を縦に流し、横に流し、そして歩行者を流す、この    繰り返しですと、ここは歩行者が非常に少ないところですから、三現示目が    歩行者がいないことが非常に多い。ですから無駄と言えば無駄だと思いま     す。

31 いわゆる、システムにのっとる、システムどおりの三現示は無駄だと。

     そうです

32 で、それと人の命を対比すると、どういうシステムが一番合理的だと考えたわけです   か。

      その代わり、三現示というのは必ず歩行者の時間が取れますから、歩行者     が渡りたいときだけ三現示にしてあげればいい、それが押しボタン式の分     離信号、三現示信号です。

33 それは都の、どの部分に対する反論なんですか。

     都は、私がこのことを言ったときに、スクランブル交差点を私が主張して     いると書いてきました。私は、スクランブル交差点など一度も主張したこ     とはございません。

34 スクランブルって、どういうことです。

    スクランブルというのは、一現示、二現示、三現示、その三現示目を、必     ず定時でもって斜めにも渡れるように、大きな交差点ではそういうものがあ    ると思いますが、それは、常に一、二、三、一、二、三、という交通の流れ    を作ります。

35 それだと都はなぜだめだと言ったんですか。

     それだと、歩行者が少ないから、ここは作れないと。

36 歩行者が少ないと、どうして作くちゃいけないんですか。

     歩行者が少ないと、無駄だということですね。

37 無駄というのは、どういうふうに無駄なんですか。

    スクランブルの場合は、そこにたくさんの横断者がいて、そしてたくさんの    車がいることを前提にしているわけです。

38 じゃあ、違う角度から聞きます。都は、ここにスクランブルを作ると、通常の車の運   行がどうなる、というふうに言っておりますか。

     渋滞すると言ってます。

39 それはあなたが言った、三現示目が自動的に行われる場合には、渋滞の可能性がある   という趣旨ですね。

     そうです。

40 すると、今言ったように、押しボタン式分離信号であるとどうなるんですか、その渋   滞の関係は。

     当然、ふだんは一、二現示で動きますから、三現示目がありません。人の渡    るときだけです。この上川橋交差点は、一日に70人程度しか人が渡ってお    りませんでした。ですから三現示目になる数がすくないんですから当然渋滞    など発生しようがないわけです。

41 押しボタンを使ってもですね。

     そうです。

42 すると、都の主張はそこでは根拠がないということですね。

     そうです。

43 今、70人というふうにあなたは言いましたけれど、それは、何かあなたは調査した   わけですか。

      はい。この交差点では、私たち夫婦が、平成5年と平成7年に交通量、交     通流の調査をいたしました。

  (甲第6号証の一、二を示す。)

44 これを調査した結果、そういうことが分かったということですね。

     はい。

45 では続いて聞きますが、本件のあなたの子供の事故に関して、東京都はこの中で、こ   の交差点 には全く瑕疵はないと、双方青信号に従って渡ってればいいんだから瑕疵   はないと主張しているんですが、現実にその現場をいつも通っているあなたとして    は、その点については、どういうふうな事実を認識しておりますか。
     
      瑕疵がないというのは、考え方がちょっとおかしいんではないかと思いま     す。確かに信号機は、都の言うように正常には作動しています。見た目も     確かに信号機の形をしています。でも、そこ利用し、正しい使いかたをし     ていて背後から殺されるという事態が実際に発生し、そこだけでなく、同     じような信号で、それが繰り返し発生しているんならば、それはやっぱり     おかしいということです。

46 それ以外にも事故関係の調査を、あなたはしたことがありますか。

     ・・・・・・・・・。

47 交差点で歩行者が出合った事故について、調査したことはありますか。

     もちろんあります。

48 証拠で出してありますね。

     出してあります。

(甲第20号証を示す)

49 ここにいろいろなデーターが載っていますね、「非分離信号、右左折事故交差点調    査」。これは、あなたが何を基にして調査したものですか。    

      人に聞いたことや、人から教えていただいたこと、それから新聞記事、そ     れらを基にその現場に行って、中には現場に行けなかったところもありま     すが、現場に行って周りの方々のお話を聞き、そしてこの事故がどのよう     な形で発生したか、特に車の動き、人の動き、そして交差点の形状これら     のことを調べてまいりました。

50 死亡事故が中心ですか。

     そうです。ここでは、すべて死亡事故です。

51 これらのデータを全部調べた上で、東京都に対して、ここを押しボタン式三現示の信   号にすべきであると主張しているわけですね。

     そうです。

(甲第11号証の写真Bを示す)

52 上川橋交差点について、更に詳しく聞きますが、このBの写真ですけれど、あなたの   お子さんは、この「東京中道機械」という立て看板の、どこからどっちへ向かって進   んだのですか。

     中道機械の前で、妹と一緒に信号待ちをしており、そこから手前の方に歩     いてまいりました。

53 青信号に従ってね。

     はい。

54 で、車はここではどういう方向から来たんでしょうか。

     車は、ちょうど左の横断歩道の奥に停止線があり、そこで信号待ちをして     いたずです。

55 それから。

     それから信号に従って左折してきたということです。

56 そこで発生した事故だ、ということですね。

     はい。

57 この上川の交差点はこの本件事故車両であるダンプカー等の通行量、ないし程度は、   どのようなものでしょうか。

     この交差点は、一日平均、昼間六時時から六時ぐらいまでで、約7、8千     台の車が通ります。その中の十パーセントは、ダンプ車両です。そしてそ     のダンプ車両の九八パーセントは、そこで右左折を行います。

58 右左折というのは、先ほどの甲第11号の二ページ目の下の図面で言いますと、ま    ず、左折は八王子市街方面から美山方面へ。

     はい。

59 で、右折は、美山方面から八王子市街へと、そういうことでしょうか。

     当時は、そのように動いておりました。

60 そういう右左折をするわけだね。

     そうです。

(甲第11号証の写真C、Dを示す)

61 これが、その右折や左折の状況ですか。

     まさしくそのとおりです。

62 あなたも、この事故が起きてから後、この現場で、ダンプの動き等を確認したことは   ありますか。

     よくやっておりました。

63  運転形態はどうでした。

      無線を持ちながら運転している者や、黄色信号で突っ込んでくる者や、い     ろいろな者がおります。

64  速度を落としてゆっくり曲がるダンプが多いのか、それとも強引に曲がってしまう    ダンプが多いですか。

     おおむね。速度を落として曲がるダンプが多いと思います。

65  中には無線を持ったり。

     はい。特に無線の場合はよくやっています。

66  無線を持って左折したりする。

     はい、やってます。

67 そういうような場所なわけですね。

     そうです。

68 歩行者の数が相対的に少ないということであれば、それはもちろんダンプの運転手も   認識しているでしょうね。

      歩行者の数が少ないから、今回の加害者は、人がいなかったと思った、そ     のようなことを、刑事裁判では供述しています。

69 通る人が少ないから、そこを通るに当たって、人がいないと思って左折したというわ   けですね。

     はい、そのように書いていました。

(甲17号証を示す)

70 被告人の東京高裁の供述書、この111丁の裏から112丁にかけて、「私が見たと   きには歩道にはいなくて、左折するときには左のミラーを見て、直線に入ってからゴ   トンと音がしたもので、全く気付きませんでした」と、このことでしょうかね。

      いえ、ここには出してないかと思いますがはっきりと証人の調書で書いて     あったのを、私は記憶しております。

71 調書でね。

     はい。

72 そうすると、被告の渡辺が、言い忘れたかどうか別として、ここを渡るときに、人が   いないという基本認識に立ってたことは事実だね。

      私から考えれば、信号待ちして、その目の前に子供がいて、走りだそうと     したら、その前に妹が歩き始め、そして次の被害者、息子が歩き、人がい     ないと思ったなんてふざけるなと思っています。ただそうは言っても、こ     こは歩行者が確かに少ない交差点です。ですからそのような認識で走って     いる車が多いと、そのように思ってます。

73 都の主張は、歩行者が少ないから、分離信号にする必要はないんだと、こういうふう   に言っておるんですね。

     はい。

74 歩行者が少ないから、歩行者はいないだろうと思って、運転者は、安心してここの信   号をわたっちゃうわけですよね。

     はい。

75  そうすると、おかしなことになりますよね。

     もちろん、おかしなことです。

76 むしろ歩行者がいないがゆえにこそ、先ほどの、押しボタン式分離信号にしないと。

      はい。歩行者がいないがゆえに、車はそれらを見落とす。つまり、その少     ない歩行者というのは、非常に危険にさらされていると思います。

77 基本的にはそういうことになるわけだね。

     はい。

78 ところで、原告は仲間の人たちと一緒に、東京都に陳情にいったことはありますか。

     あります。

79 まず、最初はどこに行きました。

      最初は八王子警察署、これは平成5年7月に行きました。その前に、私は     こういう事故が発生したんだということを、八王子そごうで写真展を開      き、皆さんから賛同の署名をいただいて、そのときは16000を上回る     数をもって、八王子署を窓口に、警察庁にお願いいたしました。

80 そうしたら、どういう回答がきました。

      いつまでたっても、回答はきませんでした。ですから、どこでそれが止ま     っているのか、だれがだめだと言っているのか、それを窓口で聞きまし      た。そしたら交通管制課でだめだと言っているというのを聞いたので、私     はまた八王子署の窓口を通じて、交通管制課とお話をしたい、回答をお聞     きしたいと言って、住民の方々と共に、6名で警視庁交通管制課を訪ねま     した。

81  そしたら、どうでした。

      そこでは、信号の説明をしてくれただけで、上川橋交差点はただ安全だ      と、何の根拠もないのに安全だと。信号機は正常に作動している、ただ、     そのように言っていました。ですからはっきりとした理由が分かりませ      ん。

82 安全という理由が分からないし。

      はい。そこで新聞社の人がそれを聞いてくれたところ、その表現は現在の     お互いに注意するという交通ルールになじまない、という表現をしたとの     ことです。

83 どういうことですか、それは。

     結局、どのような場所でも、お互いが注意していれば事故は発生しない      と、そういうことを言っている。

84 警察官が、そう言うんですか。

     はい。

85 本件事故は、やはり被告Wの不注意によって発生したものですよね。

     もちろんそうです。

86 注意していれば事故は発生しないとういことを、警察官が言ったことを新聞社から聞   いたわけですか。

     ええ。これは記事になっています。

87 だから非常におかしいんですけれども、もともと人間の過失が前提になっいるから事   故が起きるんですけれども、そういう回答だったわけですね。 

      まあ、信号機に限らず、交差点では歩行者のほうも注意していればひかれ     ることはない、車の方も、注意していればひくことはない、こういう表現     だと私は思っています。

88 亡くなった元喜君に、交通ルールについての説明はしたことはありますか。

      はい。今の時代、一番注意しなければいけないのは、交通事故だと思って     います。ですから危険だと思われることについては、親として、出来るだ     けのことは教育したつもりです。

89 具体的に、どういう教育をしました。まず信号に関しては。

      信号機に関しては、青で渡りなさい、でも、信号の変わりめのときはそ     のまま走ってくる車がいる、だから一回途切れてから渡りなさい、そのよ     うな表現をして、子供には教えてあります。

90 あなたの妻、同じく原告になっている長谷かつえは、どこでどういう仕事をしていま   すか。

     上川で、共励保育園という保育園の保母をやっております。

91 保母さんだから、当然、道路を通行するときに、自分の子供以外の子供にも説明しま   すわね。

     はい。

92 妻から、どういう話を聞いていますか。

     子供に教育ができないと言っています。

93 まず、今まではどういう教育をしてたんですか。

     できるだけ、道路を横断するときには信号機のあるところを渡りなさい、     そして青信号を確認し、車が来ないのを確認してから横断しなさい、その     ように言っておりました。

94 ところが現在それが教育できないというのは、どういうことなんですか。

     だって、それでうちの子は殺されているんです。注意して一歩踏みだし、     二歩踏みだし、そして渡ろうと思ったら背後から殺されているんです。

95 だから説明できない。  

     説明できません。

96 仮の話しですが、Wが赤信号を無視して来たんであればこれはこれで、東京都の責任   はないわけですね。

     そうですね。

97 原告のあなたが、東京都に責任があると思っている一番の根拠はどこなんですか。

     ・・・・・まず、交差点の安全性がないということです。    
     子どもたちが、まあ大人でもそうですが、車が来る道路を横断するとき      は、信号機に従って行かざるを得ません。そうした場合、一歩踏み出すま     では左右の確認というのができますが、踏み出した後は、信号機に頼って     歩いていくしかないんです。

     ところが、その安全性というのは何によって約束されているかというと、     今の交差点の場合、背後から、又は前方から突っ込んでくるであろう車、     その車が注意してくれるであろうという認識に立って、歩かされていま      す。

      人間の信頼性というのは、そんなに高いものでしょうか、高いわけがあり     ません。だから、毎年毎年同じように、こんな無惨な殺され方を歩行者は     するんだと思います。

(甲第16号証を示す)

98  これ、いろんな写真等を作って、張ってありますね。

     はい。

99  作成者は、あなたですか。

     私です。

100 この図面を見ますと、加害者が図面下から左へ左折していくときに、息子さんは、    交差点の上でまさにひかれたわけですよね。

     はい、そのとおりです。

101 息子さんは、自分の背後から来る車には、当然気が付きませんわね。 

     もちろん無理だと思います。ましてやこの車は、私が調べたときに はウ     インカーさえ出さないで左折しています。

102 これは、100パーセント加害者が悪い事故なんだけれども、もし仮に、押しボタ    ン式三現示方式であれば、この事故の発生は防げたでしょうか。

     ええ、まったくそこは事故が存在する余地がなかったと思います。

103 信号無視して来ない限りはね。  

     はい、そうです。

104 信号無視は、ほとんど故意に近いから。

     はい。ここでもし三現示にして、なおかつ事故が起きるんだったらなら      ば、加害者は信号無視をして、なおかつ歩行者の動きも見ず殺しているか     らです。

105 ということになるわね。

     はい。

106 これに対して、東京都は、ここの信号は安全である、安全性に疑う余地がないと主    張していますね。

     はい。

107 この主張の意味は分かります。

     全く分かりません。

108 で、この信号は、もともと信号機としては設置されていますね、上川橋に。

     もともと設置されてある信号機です

109 あなたも随分勉強したんでしょうから、もし仮に、押しボタン式の三現示にすると    したら、それは大変なコストがかかるというふうに考えられますか。

      いえ、幾らもかからないと思います。もともと、信号機というのは一本3     00万円くらいだと思いますけれども、それがあの交差点に三基あったと     して900万、もともとあるものにちょこっと手を加えるだけです。です     から大したコストはかからないと考えております。

さて、以上、本件交差点の問題を端的に質問で聞いたんですが、今度はあなたの損害について聞きます。

(甲第18号証を示す)

110 葬儀、墓石関係の領収書が出ております。これはすべて葬儀関係の費用ですね。

     はい、そうです。

111 最も高くお金がかかってるのは、仏壇と墓石なんですが、これはこの事故のために    あなたが作ったと。

     そうです。

(甲第19号証の一、二を示す)

112 これは、元喜君の葬儀のときの写真ですね。

     はい、そうです。

(甲第19号証の三、四を示す)

113 これはなんですか。

     これは、元喜の墓石ですけれども、もう長男がやられたら、私の家の名前     なんか付けてもしょうがないということで、それで私が元喜の戒名を取っ     て、そのまま「智元善」という名前の墓を作ったものです。

(甲第19号証の五を示す)

114 これは、どういう写真ですか。

     これは、このような形で殺された子供の墓を、せめて、母の勤める保育園     の見える丘に建ててあげたかっただけです。

115 その費用が、それだけかかったということですね。

     はい。

116 次に、Y石産及び加害者のWのことを聞きます。加害者であるWは、どのような誠    意を示してくれましたか。

      加害者Wは、誠意というものが全く感じられませんでした。ただ、事故が     発生したときに、二回ほど私の家に来ただけです。あとはうそをついてみ     たり、居留守を使ってみたり、誠意のかけらも感じられません。

117 Y石産はどうですか。

     Y石産も同じです。

118 どういうふうでしたか。

     会社からは、三名ほどあいさつに来ました。でも私が感じるのは、ただそ     れは儀礼的なあいさつと感じています。彼らは一般道路を自分たちの職場     としてそのまま使い、その中で迷惑をかけても、事故だからやむ得ない、     致し方ない、そのような感覚でいるんではないでしょうか。

119 平成七年十二月二一日付けの答弁書には、被告Y石産は、あなた方原告らの意向に    従って、業界内において交通安全を呼び掛けてきたと言ってるんですが、具体的に    どういう呼び掛けをしたか、記憶してますか。

      一度書面か何かで、ちらしを作って社内に配ったというようなことを聞い     ておりますけれども、あそこの車は、無線を使ったり、スピードを出して     みたり、いろいろと危ないんですが、そういうようなことをやってちゃん     と安全に車が運行されてたかというと、非常に疑問です。

     そこに証拠として出しておりますとおり、ぱっと写真をとれば無線の車が     写る、そしてつい最近では、私のところの町会長さんの家の前で、過積載     していたのであろうか、スピードを出しすぎていたのであろうか、カーブ     を曲がり切れずに対向車線にはみ出し、そして、対向してきた車を三分の     二ぐらいにスクラップにして、人間もろとも押しつぶしたという事故が発     生してます。

120 それは、いつごろのことですか。

     あれは、去年、おととしぐらいのことじゃなかったでしょうか。

121 Y石産がやっぱり加害者ですか。

     Y石産だと聞いています。

122 そうすると、その町会長さんの家というのは、あなたの家から近いところにあるん    ですか。

     私の家から、1、2キロくらいのところでしょうか。

123 そうすると、Y石産が交通安全を呼び掛けて、交通安全のために努力したというの    は、これは真実なんでしょうか。それとも方便というのかな、そういうものでしょ    うか。

     私は、方便だと思ってます。

124 被告Wは、どういう刑事処分を受けたか知っていますか。

     全く連絡はきませんでしたから、分からなかったんですが、Y石産に行っ     て問い合わせたところ、10箇月の刑だったということです。

125 で、もちろん控訴して争ったんでしょうけれども、その控訴の最中に、原告のとこ    ろにやってきて、和解の話しとか、そういう話しはありましたか。

     本人からは、全くございません。

126 だれからありました、全くなかったんですか。

      保健会社が来て、こんなものでいかがでしょうか、とういうメモをくれた     ことはあります。

127 Wの弁護士さんかだれかが付いて、あなたのところに嘆願書を書いてくれとか、お    金を持ってきたとか、そういうことはありましたか。

     電話で一度、嘆願書を書いてくれと言われたことがあります。
     だから、とんでもないと言ってお断りしました。

128 それだけですか。

     それから、私の全然連絡のないときに、お金を送ってきたことがありま      す。

129 幾らですか。

     後で知った話ですが、100万です。

130 それは、どうしましたか。

     それは、刑事裁判をやってた途中ですから、法廷でお返しいたしました。

131 法廷へ持っていったんですか。

     はい。法廷へ持っていきました。
     結局、彼がやろうとしていることは、私たちにお金を送りましたと、被害     者は受領しましたと、その受領の証書をもって、高裁で、被害者には誠意     を尽くしてますという表現をする、偽善的な行為だったとしか考えられな     かったからです。

132 その100万を送る説明は、十分にあったんですか。

     全くございませんでした。

133 まったくなかった。

     はい。

134 (相手の)弁護士さんから、十分な説明はありましたか。

     全くございませんでした。

135 それで、返したわけですね。

     はい、そうです。 

136 それ以外に、Wがやってくれた誠意はありますか。誠意らしきものとか、そういう    ものは。

     全くありませんでした。

137 Y石産から、保健会社の賠償金以外に、幾らかお金を出そうというような提案はあ    りましたか。

     全くありませんでした。

138 今日までもないわけですね。

     ありません。

139 Y石産の代理人は、答弁書において、先ほどの交通安全の呼び掛けをしたと同時     に、謝罪に努めると共に賠償の申し入れをしてきたんだけれども、考え方が違った    から裁判になったんだと、こう言っておるんですけれども、その点はどうですか。

     加害者から見れば、そうかもしれません。なぜならば、取り返しのつかな     い事故を起こして、いかにして、これを問題なく収めてしまおうかと考え     ているだけだと思いますし、人間というのは、そんなものかなと思いま      す。

140 WとY石産に関してはそれで結構ですが、東京都に関して、信号に関連して、その    他、何か原告本人として言いたいことというのはありますか。

      はい。今回は、交差点がおかしいということを、私は都にずっと言い続け     てまいりました。私の子供は、今ご説明したとおり、信号機に従い、通常     の横断の仕方をしながら、左折車両によって蹂躙されました。こんな悲し     いことはありません。これを私は、今、生きている子どもたちに与えたく     ありません。できることならば、このようなことは、今後一切発生してほ     しくないと思っています。

     交通事故は人災です。ですから、人がこれを防止しようと思えば、できる     わけです。つまり過失を人が防止しようと思っても、なかなか出来ませ      ん。でもその過失を前提にして、その構造をもっと安全なものにすれば、     その形の交通事故は防げると考えてます。

     私が申し上げました押しボタン式分離信号は、このような歩行者の少ない     ところにとっては、非常に有効な方法だと思ってます。都はスクランブル     交差点、これについては、歩行者が少ないところは無理だと言っていまし     た。でもスクランブル交差点の一番いいところと言うのは、人と車を完全     に分離して、安全性が非常に高められるところだと考えています。分 離     するということは、スクランブルだけではありません。先ほども申し上げ     ましたとおり、押しボタンによって一時分離することも、可能なはずで      す。

     彼らは、分離すること(安全を高めること)に関して、全く研究しようと     もしていませんでした。だから私は怒ったんです。

     何の罪もない子供がこのよう形で殺されて、その事故の分析もせず、人と     車の分離は無理だ、信号は正常に動いている、何の根拠もなく、交差点は     安全だ、あまりいいかげんなことを言うものではありません。

     営造物の安全性とは、ものが正常な形を整え、正常な動きをしているだ      け、それのみにとどまるものではないと思います。それを正常に使用して     いて、ないかつ危害が及ぶ危険がある、もしそうであるならば、それは営     造物に瑕疵があると私は考えています。もちろん、それがどのような方法     をとっても、また、莫大なコストがかかかる、そういったことで安全性を     高めることが不可だというならば、私も納得します。しかし都の言ってい     ることは、私は 一切納得できません。

     もっと国民のために有効に金を使っていただきたい。もっと国民のために     ちゃんと知恵を使っていただきたいと思います。

                           (以上 平井万亀子)

被告東京都代理人(西道)

141 あなたのお住まいは上川町というんですか。

     はい、そうです。

142 こちらのほうには、いつごろからお住まいになっているんですか。

     もう20年近くになりますでしょうか。15年か20年近くたちます。

143 昭和何年ごろからでしょうか。

     昭和55年くらいですかね、ちょっとはっきり記憶にありません。

144 本件の、息子さんが事故に遭われた上川橋交差点、そこまでは、お住まいからどの    くらいの距離になるんでしょうか。

     約一キロくらいではないでしょうか。

145 あなたが今のお住まいのところに来られてから、この交差点には今と同じような信    号機が設置されていたんでしょうか。

     はい、設置されていました。

146 二現示式だったんですね。

     二現示式です。

147 亡くなられた息子さんは、小学校一年から、この上川橋交差点を通常の形態で通学    されていたんですか。

      はい、あそこは通学路になっておりました。ですから、一年生のときか      ら、あそこを通学してます。私たちは家族であそ通って、この交差点はこ     のように渡るんだよと言って、就学時に学校まで通ったことがございま      す。

148 あなたは、御自分で自動車を運転されることもあるわけですか。

     あります。

149 事故に遭われる前、御自分で自動車を運転されてこの交差点のところを通ったこと    がありますか。

     よくあります。

150 相当頻繁に通っておられたんですか。

     通っております。職場は反対の方向ですから、頻繁ではないですけれど      も。

151 相当回数通ってたというふうに伺ってよろしい分けですね。

     そうですね。

152 この上川橋交差点で限定してお聞きしますけれども、息子さんが遭われたような形    態での事故というもの、以前、発生したというようなことは聞いていないのです     ね。

      あの交差点は、交差点が出来てから11年しかたってません。ですから事      故以前、あそこではまだ一件しか発生していなかったと思います。

153 息子さんが遭われたような形態での事故というのは聞いてないですよね。

     周りでは一杯聞いてます。

154 本件に関してですけれども。

      本件交差点では一件です。ただ、私の言っているのは、あの種の交差点で     すから、周りでは一杯やっております。

155 その一件聞いたという話しですけれども、やはり息子さんが遭われた事故と同じよ    うな形態での事故だったんですか。

     それは、違います。

156 息子さんが事故に遭われる前に、あなたが今いろいろ主張されているような押しボ    タン式分離信号というものを、あそこの交差点に設置するような話が、地元の方に    出ていたんでしょうか。

     いいえ、出ていませんでした。

157 すると、息子さんの事故を契機として、あなたの方では、押しボタン式分離信号に    してくれということを警視庁等に働きかけていたと、こういうふうに伺ってよろし    い分けですか。

     そうです。

158 先ほど主尋問のところでも出てきましたけれども、それに対して警視庁の方では、    あの交差点は安全であるとこういうふうな話をしていたということですね。

     はい、そうです。

159 結局、押しボタン式分離信号に変える必要性を認めないということを言っていたこ    とになるんですか。

     そうです。

(被告W及び同Y石産(株)代理人)

160 あなたはこれまで交通事故に関する賠償金について、裁判所がどのような判断を示    してきたかということを、どなたかに聞いたことはありますか。

     聞いたことはありません。本で読んだことはあります。

161 例えば、学童の方が交通事故で亡くなられたときに、慰謝料として裁判所が大体ど    のくらいの支払命じているか、こういうことも、本でご覧になったことあります     か。

      見たことはありますけれども、記憶にはありません。結局、子供の値段な     んて、私たちにとっては基本的に考えられないからです。それだけ大きな     値段だからです。価格がつけられない。

162 要するに、今まで裁判所が出してきた慰謝料などの数字、そういったものでは、
    あなた方のお考えと全く合わないと、そういうふうに伺ってよろしいですか。

      この主の事故で、ただ、あなた方の作った規定の数字を当てはめて、この     事故は幾らです、あなたのお子さんの命は幾らです、そのような考え方に     は、私の考えは当てはまらない分けです。

163 そういうことで、本件の裁判を起こされてるわけですね。

      あなたのおっしゃっていることは、金額のことだけ、私に尋ねているんで     すか。

164 今、私の方でお尋ねしているのは、金額のことです。

     金額もそうですが、都の瑕疵も。

165 それから、先ほど刑事事件の弁護士さんの方から嘆願書の依頼があったというお話    でしたね。

     はい。

166 その件について、刑事事件の弁護士さんのほうから、嘆願書とはどういうものなの    かというご説明はありましたか。

      当時、電話で、ただ、私は加害者Wの代理人ですと。で加害者の嘆願書を     もらいたいんですが、伺いたいんですがということで電話が来ました。

167 特にそれ以上、嘆願書というものの説明というのはなかったんですか。

      特になかったように思いますが、もちろん嘆願書という言葉で常識的に理      解しておりました。

168 結論としては、あなたのお考えと合わないから、断られたということでよろしいわ    けですか。

      もちろん、あのような形で歩行者をはねて、嘆願書などということはとん     でもないと、私は加害者が来たときに、あなたが犯した罪は、償ってくだ     さいと言ったはずです。だから裁判所で十月の刑が出れば、当然それに服     してくださいということであって、それに対して不服をいうようなもの      に、なぜ私が一緒になって署名しなきゃならないんですか。ということで     す。

原告ら代理人(古田)

169 あなたの妻の長谷かつえのことを聞きますが、この元喜君が亡くなった後、先ほど    勤めていた保育園については、どういうような扱いになりましたか。

     正社員が、アルバイトという形になってしまいました。

170 なぜですか。

  
      それは、私たちの子供は二人います。娘は事故を目撃しています。事故後     やはり非常に神経的に参っているような状況がありました。 
     事故を思い起こしてフラッシュバックしてしまうかもしれません。残され     たものは、あとの家族を守ることです。ですから、妻が一時職場を離れ、     妹を見てやるのは当然の家族の形態だと考えてました。だから事故後、ア     ルバイトに変わりました。

171 アルバイトと正社員では、どういうふうに負担がちがうんですか。

     もちろん賃金のほうもずっと下がっていきます。

172 時間的な部分の余裕はどうなんですか。

      勤務時間が短くなりますから、その分だけ早く子供より家にたどり着き、      子供を見守ることができます。  

173 その分、減収はどうなんですか。

     ありました。

174 一年にどれくらいずつありましたか。

     すみません、書類ではだしましたが、ちょっと覚えていないんですが。

175 相当額ですか。

     相当額ありました。

176 今、かつえさんは、職場に復帰したんですか。

     はい、復帰いたしました。

177 同僚と比べて、その三年間のアルバイトの期間は、今現在で、給料の差は、戻った    んですか、戻ってないんですか。

      私はあんまりお金のこと考えないんで、同僚と比べて戻ったとか、戻らな     いとか言われると、わからないんですが、ただ、そのまま正社員でい続け     ていたならば、より高い賃金を頂けたと思っております。

東京地方裁判所八王子支部民事第三部

裁判所速記官 平井万亀子

裁判所速記官 河西由紀


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