神奈川県立高等学校PTA連合会交通安全集会
講演原稿(1時間)
長谷智喜 講演;道路交通の危険と分離信号の必要性について」
日時;2000年11月4日(土)13時〜16時
場所;川崎市 高津市民館
ご挨拶
1、上川橋交差点事故について
2、道路交通の危険について
3、不確実な人間注意力について
4一般交差点は人命を的にしたロシアンルーレット
5、歩行者の安全がはかれる分離信号の必要性
6、分離信号運動の広がりと行政の対応
7「分離信号」から学ぶ交通安全
8、危険度の高い通学路には分離信号を
ー道路交通の危険と分離信号の必要性についてー
挨拶
只今ご紹介いただきました八王子の長谷と申します。
私の住んでいるところは八王子市の郊外です。付近は住宅も少なく小学校のクラスは30名にも満たない単学級で、山々に囲まれた緑の豊かな地域です。実はそんな自然環境の中で、平成4年11月11日、午前8時。長男元喜は通学路の交差点で青信号の歩道を横断中、左折してきたダンプにひかれ亡くなりました。遺品として戻ってきたランドセルからは、前の晩に考えていたなぞなぞカードがでてきました。
「信号はなぜあるの、信号がないと交通事故にあうから」
そのカードを見た私達夫婦の悲しみはとても言葉につくせるものではありませんでした。息子は青信号に裏切られるようにして命を奪われたのでした。現在の交通環境は、交通ルールを守る子どもたちでさえ簡単に事故にあう。そういう環境なのです。
そのようなことから本日は「道路交通の危険と分離信号の必要性について」ということでお話をさせて頂きたいと思います。
そこで、「分離信号」とはどのようなものか、まずはわかりやすくご理解していただくため、VTRをご用意させていただきました。
それと前もってお断りいたしておきますが、私の言う歩行者とは自転車も含みます。自転車は車輪があるだけで、統計上車両扱いをされていますがどうみても交通弱者です。そういった意味でこのお話をするときは自転車も歩行者と扱わせていただきます。
それではビデオをお願いいたします。
ビデオ・・
いかがでしたでしょうか。これだけで分離信号の必要性がわかってしまわれたのではないのでしょうか。交通ルールを守る子どもたちが青信号の歩道上で事故にあうこの右左折事故は、交通安全をかたるうえで最も重要な問題です。
なぜならこの種の事故をじーっと見つめてみると、本来安全でなければならない青信号の横断歩道で、なんの落ち度もない子どもや老人が、日常的に殺傷されているからです。
もちろんその中に、多くの中学生、高校生たちが含まれていることは言うまでもありません。
1、上川橋交差点事故について
■それでは改めて、私の息子が命を奪われた上川橋交差点事故についてご説明いたします。当時、小学校5年生だった長男元喜は、2つ下の妹といっしょに学校に向かって家を出ました。学校までは1、6H。そのなかほどに事故のあったT字路の上川橋交差点があります。二人は交差点でしばらく信号待ちをしていました。活発な妹は青になるとすぐに渡りはじめました。慎重な兄は横の車がきちんと止まってから渡り始めました。しかしそのとき、すでに同じ青信号で発信してきた左折ダンプがすぐ後に迫っていたのです。
このダンプは、ずーっと無線をやっていたようで、信号待ちの時から目の前の二人を見落としていたのです。信号が変わり、小走りに横断する妹を見としたダンプは、そのあとを歩く長男の背後からいきなり曲がり始めました。元喜は、バンパーで押し倒され、車体の下に巻き込まれ最後には右後輪で頭を砕かれ絶命しました。即死でした。
■この事故の一部始終を見ていたのは、ダンプのうしろで信号待ちをしていたKさんでした。
Kさんからきいた息子の最後は、このようなものでした。
「私は、前のダンプが走り出したので、信号が青に変わったと思い続いて走り出した。前のダンプは、まっすぐいくのかなと思ったら曲がりはじめた。私は、まっすぐ行こうとしたがダンプの前に子どもを見た。『あっ、あぶない!ぶつかる!』と思った。『ぶつからなければばいいが、ぶつからなければいいが』と見たら、こどもは何か引き返しそうな様子をし、なにかふらふらした。だがやっぱりぶつかってしまった。私は半狂乱のようになってすぐ近くの交番に飛び込んだ。
Kさんのはなしから、私は惨劇のすべてが理解できました。「前のダンプがまっすぐいくのかなー」という表現は、ダンプはウインカーさえもを出していなかったことを意味します。そしてふらふらしたとか、引き返しそうな様子というのは、ダンプに見落とされたことをさとった我が子の狼狽と断末魔のあがきだったのです。
事故現場を見た私は、こんなのは事故じゃない、ただの惨殺だ!と思いました。
この手の加害者には、うちの子でなくても、だれの子でも同じように殺されていた。
なんで、青信号を渡る子どもが殺されなければならないんだという強い怒りがこみ上げてきました。
同時に、昔からこの種の事故では、皆このようにして命を奪われていたのだなと直感しました。
周辺交差点の実例について
■息子の命が奪われた上川橋交差点の南、美山地域には関東一とも言われる大きな採石場があります。
周辺道路は採石場へ出入りする大型ダンプがひっきりなしに往来しています。私はおそらく、周りの交差点でも同じような事故が発生していたはずだと感じていました。
そこで周辺交差点の過去を調べてみると、おどろいたことに、一つ置いたとなりの交差点で小学校2年生の女の子が左折ダンプにひかれ、そのとなりの交差点では、75才のおばあさんが右折ダンプにひかれ、そのダンプ街道を八王子市街に向かった、日吉交差点という所では青信号で手を上げて横断していた小学生が右折ダンプにひかれ、その次の千人町交差点でも中一の男子生徒が左折ダンプのひかれて亡くなりました。皆即死です。このときの加害車両は全て採石場に出入りするダンプでした。
さらに、上川橋交差点事故の翌年3月、こんどは八王子市内椚田町の交差点で卒業をしたばかりの女子高生が、左折してきたダンプに轢かれ亡くなりました。このときのダンプも採石場のダンプと聞いています。
■おもったとおり、この地域では以前から子どもや老人が繰り返し、繰り返し右左折ダンプの犠牲になっていたのです。
2、道路交通の危険について
■このように、交通ルールをま守っていても事故に遭う危険、死亡させられる危険、とは
いったいなんでしょう。
私は、「道路交通の危険とは、他人の注意力に自分の身をゆだねる危険」だと考えます。
これまで交通の安全は、一人一人の注意力によるものと教えられてきました。
もちろんそれは間違っていません。しかし、良く考えてみると、そのことの裏返しは「他人の注意力の中に我が身がおかれている」ということなのです。
■たとえば、高速道路を走る車を思い浮かべてください。高速道路ではいろいろな車が団子状態になって走行しています。個々のドライバーは皆十分注意して運転いるはずです。しかし、中の一台がミスを犯しで自分のクルマに接触したら、いくら自分が注意していてもダメなのです。罪もない気の毒な者として簡単に事故にまきこまれてしまうのです。
ほかにも信号待ちや渋滞で停車中、不注意な車がズカッと突っ込んでくる事故もあります。
■8月31日、首都高で玉突事故2名が死亡というのがありました。これは渋滞で停止していた乗用車にバスが突っ込み、そのすぐ後ろを走っていた、ワゴン車とトラックがそれに追突したというものです。
バスとトラックに挟まれたワゴン車の男性4人の内2人が死亡しました。
■さらに、9月2日には、このような痛ましい記事がありました。「いのち残して、母はさった」
福島県で発生したこの事故は、信号待ちで停止していた軽乗用車に、脇見運転の大型車が突っ込み、後部座席に乗っていた奥さんが、全身を強く打ち病院にはこばれ帝王切開で赤ちゃんを出産後死亡したというものです。その後のニュースでは、この赤ちゃんも全身を強く打っていて亡くなってしまったとのことでした。一体この家族に、なんの落ち度があったというのでしょう。
このように道路交通の危険とはいくら自分が注意しても、他人の不注意によって事故にあう危険、同じ道路を利用する者同士、他人の注意力に自分の身をゆだねる危険なのです。
■それでは、青信号を渡る歩行者の場合はどうでしょう。青信号を頼りに渡る歩行者は、人を見落として迫る右左折車などは、避けようがありません。クルマから見落とされたら最期なのです。ここでの歩行者とは、まさに他人の注意力、不確実な人間の注意力の前に、自分の命をゆだねている状態といえます。
私たちは、毎日毎日そのようなところに子どもたちを送り出しているのです。
3、不確実な人間注意力について
■それでは他人の注意力、不確実な人間の注意力とはどのようなものなのでしょう。
【1番をお願いします。】 類似事故、死亡者数の比率
@このグラフはお手元の資料2です。ここには、類似事故の死亡者数の比率が平成3年から7年まで、同心円のグラフとして描かれています。これを見ると、人というものは毎年毎年よくもまあ、同じ確率でミスをおかすものだとぞっとします。
グラフで見る限り人の過失は、きみの悪いほど同じ確率で発生しています。この変わらぬ類似事故の死亡者数からは、条件変わらなければ、人は同じ確率でミスを犯し同じ事故を発生させると推測できます。
さらに、歩行者事故を見てみましょう。これは自転車を含んでないデーターですが
歩行者事故は交通事故全体の約28%を占めます。その内訳は
横断歩道歩行中が 8%
その他横断中が 12.5%
対背面通行中は 3〜4%
その他も 3〜4%です
歩行者事故だけを抜き出して見ると、安全を求めて渡る横断歩道は、歩行者事故の30%をしめる危険な場所です。
データが平成3年から7年と古いので、昨年のデータも調べてみました。
・歩行者事故は全体の 28.8%
横断歩道歩行中は 8.2%、
その他横断中は 12.3%、
対背面通行中は 3.5%、
その他は 4.6%です。
やはりほぼ同じなのです。
このように「不確実な人間の注意力」は、毎年ほとんど変わらない確率で事故を発生させています。
ですから、歩行者の命を車両運転手の注意力のみに任せるという交差点の構造が変わらないかぎり、
毎年ほぼ同じ数の犠牲者が出るのはあたりまえなのす。
4一般交差点は人命を的にしたロシアンルーレット
●下の図、子どもたちに強いる危険性一般交差点検証をごらんください。
この図は、今生きている子どもたちが日常横断している交差点の危険性を図にしたものです。
ここに青信号を渡る子どもたちがいます。子どもたちは車道に一歩を踏み出すまでは注意ができますが、それから先の安全の根拠というのは右左折してくる運転者の注意力です。その運転手とは先ほどのグラフでご理解していただいたとおり人間の不確実な注意力です。
ここで繰り返し人と車が交錯すれば、いつか人を見落とす車両に遭遇する不幸な歩行者がでるのは当然です。交差点とは、始めから理不尽な歩行者事故が予測できるシステムなのです。
■皆さんロシアンルーレットってご存じですか。これは度胸試しに行う遊びで、回転式の拳銃に弾を一発だけいれ自分の頭に向け引き金を引く。いつ弾にあたるか分からない。運が悪ければ一発です。
危険度の高い交差点はまさに、歩行者の命を的にしたロシアンルーレットの状態です。車優先社会では、これまで交差点での歩行者の危険をやむ得ぬものと放置してきました。このことは交差点での歩行者の不合理な死を容認していることになります。だとするならばこれはまさに「行政が容認する構造死」と言えます。
■さて、この種の死亡事故の加害車両ですが、ほとんどが大型車両を主としたトラック系の車両です。
【2番をお願いします。】 加害車種の分布図
この図は、事故のあった交差点と加害車種の分布図です。
赤い点が大型車です。黄色の点は、普通トラック、ワンボックス。そして青い点が乗用車です。
事故例が56と少ないのですが、傾向をみるには十分です。
これを担当行政が作成すれば、きっと下地の地図がかくれるほど赤や黄色に染まってしまうことでしょう。事故現場の多くは、繁華街からはずれた横断者のすくないところで大型車両が頻繁に右左折する交差点でした。
いまお話している、高津市民会館はここです。私のすんでいる八王子はここ。そして息子が亡くなった上川橋交差点はここです。上川橋交差点の奥は美山採石場、大型ダンプが激しいところです。
資料5にあります、大宮での高校生の事故現場はここです。先日この事故現場に行ってみたのですが
どうもこの交差点大変危険なところで、ほかにも女子高生と4才のお子さんの死亡事故が発生していた疑いがもたれます。
加害車両の内訳は、ごらんのとおり圧倒的に大型車が多い。内訳は、大型車34例、トラック、1ボックス20例、普通車2例です。
それではなぜ、加害車両に大型車が多いのか、それは大型車のもつ直前視界の悪さ、そして圧倒的な殺傷力のためと考えられます。
■Bはじめに大型車の直前視界を見てみましょう
【3番をお願いします。】 大型車の直前視界
大型車の運転席にすわった時の目線の高さは2m50cmもあります。ここから見える前方は遠くまで見渡せて見通しが良いのですが、直前の歩行者などは俯瞰してみなければならず見づらい。それに近づきすぎると死角にはいり目の前から消えます。つまり直前の視界が非常に悪いのです。だから事故を起こす確率が高い。歩行者にとって大変危険な車両なのです。
それにくらべ、乗用車は運転席が低いため直前の視界が良く、歩行者は衝突寸前まで大きく見えます。
■Cつぎ殺傷力を見てみましょう
【4番をお願いします。】 加害車種の分布図
まず乗用車と歩行者の衝突の場合、衝突と同時に歩行者はボンネットのに跳ね上げられ車の速度で移動。
車の停止とともに落下して道路に打ち据えられます。被害者への傷害の大きさは車速に大きく関係します。クルマユーザー専門雑誌、JAFの実験レポートによると、時速30kmくらいから死者が発生、時速40km以上から死亡率が急激に増加するようです。
しかし、大型車の場合は違います。我が子の事故の場合、ダンプの速度は15km位、乗用車との衝突だとまず死に至らない速度です。でも即死でした。これは衝突の様態が乗用車と全くちがい押し倒してから車体の下部に巻き込み車重で圧殺していくからです。
■このように危険な大型車との交錯する中で当たり前のように歩行者の犠牲が発生する現在の交差点システムは、大人社会を信じて青信号を渡る子どもたちにとって、あまりにも酷であまりにも惨いシステムなのではないのでしょうか。
私はこのような理不尽な交通事故を防止することこそ、交通安全のあるべき姿だと考えています。
5、歩行者の安全がはかれる分離信号の必要性
■Dそれでは、この危険なシステムから子どもたちの身を守る方法はないのでしょうか。
実はあるのです。交差点の信号を人と車を分けて流すように改善すればいいのです。これを「分離信号」といいます。
【5番をお願いします。】 人命尊重の分離信号
この図は皆様のお手元の資料4です
交差点の信号運用には、「分離信号」と「非分離信号」があります。双方のちがいは、歩行者とクルマを分けて流すか混在させてながすかで、歩行者への安全性がまったくちがいます。
■では、はじめに非分離信号からご説明いたします。
左の図は、同じ方向の人とクルマを混在して流す非分離信号です。この図は一般信号の交差点です。この信号運用をする理由は、歩行者には危険だけれど人やクルマを流すことだけに限って言えばもっとも効率が良いと考えているからでしょう。
■交通工学の分野では交差点の一方向の流れを現示という呼び方をします
たとえば、左図のように十字路の交差点であったばあい。縦に一度流して一現示、次に横に流してまた一現示、合わせて二現示ですね。このように一、二、一、二と縦横の繰り返しで人と車を混在して流す交差点の信号運用を二現示式の信号と言います。非分離信号である一般交差点は2元次式の信号運用を行っているのです。
■それに対し、分離信号の基本は三現示です。人と車を交錯させません。まず車だけを縦に流して一現示次に、横に流してまた一現示、最後に歩行者だけの専有時間を設けて一現示。あわせて三現示、三現示の信号運用を行なっています。
この信号運用で、定期的に三現示の目の歩行者専用時間をもうけ縦にも横にも斜めにも渡れるようにしたのがスクランブル交差点です。
また、歩行者が極端にすくない所では、普段は車だけを二現示の信号運用でながし、歩行者が渡りたいときだけボタンを押して三現示目を作り全車両を止めるという方法もあります。これが押しボタン式分離信号です。
他にも一部の危険な横断歩道のところだけを分離にする一部分離信号と言うものや、
中央分離帯を持つ大きな交差点で可能なのですが、歩行者を二段階で渡らせる二段式分離信号などもあります。
また完全な分離信号ではないのですが、歩行者だけを先に出す時差式の分離信号などというのもや、ボタンを押すことによって歩行者の青時間が長くなるという信号の運用方法も考えだされました。
このように分離信号とは今ある信号機のロジックをかえるとか押しボタンをつけることによって改善できる非常に安上がりで、歩行者の安全性が確実に高められる事故防止策です。
まさに全国的に普及させやすい、右左折事故防止の特効薬といえます。
6、分離信号運動の広がりと行政の対応
■では分離信号の広がりや行政の対応についてお話させていただきます。
私は、これまで署名運動や裁判やホームページなどで分離信号の普及を訴え続けています。この運動経緯については、各マスメディアの皆様から数多くの記事、番組を頂きました。先ほどご覧いただきましたビデオは昨年9月、日本テレビで放映されたものです。つい先月、10月13日には、飯野奈津子さんというNHKの解説委員の方が「子どもに優しい信号」ということで分離信号の紹介番組を放映してくださいました。このように多くのマスメディアがこれを放映してくださるということは、分離信号の安全性が正しく評価されているからで、いきすぎた車優先を見直なおし、歩行者の安全が配慮される「安全な交差点システム」の考えに賛同てくださったからだと思います。
■昨年8月、日本テレビの特捜プロジェクトの中で「なぜ分離信号が増えないのですか」というスタッフ質問に警視庁の担当官からはこんな答えが返ってきました。
「人と車を分離するというのは一見合理的に見えるが、信号を待つ時間が長くなるというような非合理な部分がでてくる。その非合理な部分が発生すると、信号無視とか渋滞するという形で非合理な部分が表にでてくる」こう言っていました。
私はこれを聞いて、一般信号というのは、なんの罪もない子どもたちが正しい使い方、正しい利用をして青信号を渡って突然命を奪われる。このことの方がよっぽど非合理な部分だと思います。この非合理な部分を語らずして何をバカなことを言っているのだと思いました。
■行政がこんなことですから、最近市民の声を代弁する議員さんたちからも、「通学路くらいは安全な分離信号に改善すべきだ」との意見が上がり始めました。真っ先に声をあげたのは、船橋市の朝倉幹晴さん、そして市川市では峯崎太一さんが、また岐阜県では岐阜市議の田中まさよしさん、そして地元八王子市でも平岡晴子さんが市議会で分離信号設置の一般質問をしてくださいました。
これに答えて、議会が分離信号推進を決議したところや、単なる一般質問に終わったところなどいろいろですが、私は、「理不尽な交通事故から子どもを守る」ということを、政党政派を超えいろんな方々が語っていただければいいと願っています。そうすることによってより多くの人々から「些細な車の効率を求めるよりも人の命の方が大切だ」「市民生活の安全の方が優先だ」という声が大きくなっていくのだと思います。
■この7月、杉並区の都議 藤田あや子さんによって「分離信号」の文書質問が都議会に提出されました。
質問事項は、
1、警視庁管内の分離信号の設置状況、2、左折車による巻き込み事故の状況
3、分離信号が何故増えないのか、 4、分離信号機の設置基準と今後の方策
という4項目でした。
分離信号への回答が、警視総監名で出されたことは素晴らしいことだと思います。しかし、内容は、検討するというものの、いつものとおり渋滞や歩行者が信号無視するだのとあまり進展はありませんでした。
その中で、2、左折車による巻き込み事故の状況を伺います。という問いに「平成11年中の事故件数、発生155、死者数1負傷者155人です。」との返答がありましたが、これは行政の姿勢として非常に問題です。
実はこの数字、青信号右左折事故の実態を隠蔽しているからです。
文書質問の要旨は、右左折事故による被害の実態です。質問が左折車となっていたのを良いことに、左折車だけの数字をあげ自転車を含まない歩く人だけを数字にしているようです。
実は、平成11年の青信号右左折事故の被害は、私の知る狭い範囲だけでも4件を数えます
1月16日 武蔵野市八幡町4 右折事故 47男性
6月21日 港区港3左折事故 小2(現調)
10月29日 東村山秋津3右折事故 58男性
11月 5日 東久留米市滝山6左折事故 50女性(現調)
また、見方を変え、八王子だけを見ても、平成5年、6年、7年、9年、10年、12年と毎年のように死亡者がでています。
このようなことから推し量ってみても「警視庁管内、一年間の事故死者数が1名」とはとても信じがたい数字なのです。
なぜ、青信号被害者の数字を隠蔽してまで分離信号に難色を示すのか、本当の被害の実態はどのようなものかぜひ知りたいものです。
第7次交通安全基本計画への意見提出
■この度総務庁で、第7次交通安全基本計画に盛り込むべき事項、ということで一般からの意見公募がありました。そこで私も早速分離信号のことを提出して見ました。ないようはこんなものです。
「青信号の歩道で右左折車に命を奪われる歩行者事故があとをたちません。それは交差点を渡る歩行者の命が、右左折車両の運転手の注意力にゆだねられている構造だからです。この事故は歩行者にとってあまりにも理不尽、一方的です。でも、交差点の「分離信号化」によって容易にこの種の事故は防止できます。歩行者事故の危険性が高い交差点においては、分離信号化を図り歩行者への安全を配慮してください。特に通学路の交差点では、交通ルールを守る児童の安全第一に分離信号の普及・啓発を推進すべきです。」
この意見については、その後「個々の交差点を勘案して検討すべき問題です。」などとやるともやらないともつかない回答が帰ってきましたが、本気で交通安全を行うなら、歩行者保護を述べるのなら行政之手で分離信号の安全性を国民に告知し早急に危険な交差点環境の整備をしていただきたいものだと思います。
埼玉県と千葉市若葉区千城台の分離信号
■それでもちかごろ、県警では、車優先から人の命優先を考えて下さる担当官もでてきたようです。
千葉市の若葉区千城台に、分離信号のモデル地区ができたというので視察に行ってきました。
その中の千城台東小学校前の交差点には「歩行者おもいやり信号」とかかれた交差点に、押しボタンの分離信号がありました。この押しボタン信号は、分離信号とは言っても歩行者先出し式の時差式信号なのですが、なんとボタンのデザインはパンダになっていました。警察官の中にも血の通った方がいるのだなーと感心しました。
このモデル地区は、他にも定時式のものや押しボタン式分離信号、分離信号ではないけれどボタンを押すと歩行者の青信号が長くなる交差点などいろいろありました。まだ研究段階なのでしょうが、真剣な歩行者保護の取り組みということで非常に好感のもてるものでした。いくつかの分離信号をみていくうち、千城台南小学校前ですばらしい交通標語を見つけましたのでちょっとご紹介いたします。
しんごうを まもってわたって じこはなし 千城台南学校小3年 一関 さき(早希)
この標語を設置してもはずかしくない、分離信号の交差点が全国的増えるといいですね。
■埼玉県は、昨年から歩行者の右左折事故防止を目的に交差点の分離信号化に取り組みました。県内で一気に十カ所の交差点を分離信号に改善したと言います。先ほどVTRにもありました北川辺交差点、この交差点は、そのうちの一つで加須市の北に位置する郊外の交差点です。道路は幹線道路のため交通は激しく大型車が頻繁に右左折している見るからに危険な交差点でした。すぐ近くに中学校、高校があります。普段はほとんど歩行者はありません。そのため押しボタン式の分離信号を採用したようです。現場にたって見ると本当にこのような危険なところだからこそ分離信号の必要性を感じる交差点でした。
・都立第二商業高校前分離信号
■E 私の娘は現在高校2年生で、8km離れた市内の都立第二商業高校というところに自転車でかよっています。ちかごろ気がついたのですがこの高校の前に分離信号が設置されています。
【6番をお願いします。】 都立第二商南交差点
いつから分離信号になったのかは不明ですがその理由は、道路の形状がY字路であるからです。警察では分離信号にすると歩行者が信号を守らなくなるといいますが、娘に聞くと高校生でもよく信号をまもっていると言います。先日私も見てきました、短い時間でしたがたしかに無視する者はいませんでした。
・現在の上川橋交差点
F では事故のあった肝心の上川橋交差点はどうなっているのかといいますと、この交差点は地元住民を中心に2万名からの署名で分離信号への要望が提出されているのですがいまだに改善されていません。
【7番をお願いします。】いまだ改善されない事故現場
上川橋交差点は当時のまま非分離信号で、その後あきる野からの新しい道路がつながり、危険な交差点がまた一つ増えました。
上川橋交差点は、一日、昼間の歩行者60〜70人、通行車両は、約8000台、他に抜け道はなく
朝夕の一時的な渋滞はあるものの交通容量にはまだ余裕があります。まさに分離信号にするには非常に良い条件がととのったところなのですがいまだ無策のままなのです。現在の通学路はご覧になってわかるとおり交差点をさけたSの字になっていて子どもたちは無駄な横断を強いられ新たな危険が懸念されています。
そんなわけで地元の住民は、警視庁は、子どもの命すら守ろうともしない、口先だけの歩行者保護を唱えるだけのところとあきれています。
はっきりいって私もそう思います。
7「分離信号」から学ぶ交通安全
■私は、息子の命と引き替えに知り得た分離信号からいろいろなことを学びましたが、今日は交通安全に役立つ2つのことについてお話します。一つは目、分離信号のように危険な道路環境の改善です。二つ目は他人の注意力から自分を守ることについてです。
まず一つ目の道路環境の改善という観点に立ち、周りを見ると車同士の信号運用にも危険な交差点というのが見られます。それが「時差式信号」です。
【8番をお願いします。】 G時差式信号図
この図は、一般信号と時差式信号を比較した図です。
一般的に信号の色は青から黄色そして赤に変化します。このとき普通は対向車も同じように信号の色が変わります。ところが、時差式信号のばあいは、ちがうのです。
自分が赤の時、相手が青だったり、自分が青の時、相手が赤だったりするのです。
これは、一台でも多く右折車などを通過させるための配慮なのでしょうがこれが本当に危ない。
●危険な時差式信号
この時差式信号には、先出し式と後出し式がありますが、後出し式は事故を誘発する非常に危ない信号運用なのです。
ふつう道路を右折するときは、右によって直進車が途切れるのをまって右折を行います。このとき直進車が多くて青の間に右折が出来なかった時は、しかたがないので全ての車が止まる全赤を見計らって右折します。ところが、後出し式の時差式信号の場合、自分は赤に変わったのに対向車のほうは青のままなのです。だから、全赤になったと期待して右折をすると、止まるべきはずの対向車が減速もせずに突っ込んでくるのです。
実際このような交差点で、死亡事故が多発しているといいます。平成9年12月、神奈川県横須賀市の安浦交差点では、右折車Aさんと直進バイクBさんによる衝突事故が発生しました。不幸にもこの事故で亡くなったのは直進バイクのBさんでした。交通事故では一般的に重量の軽い方が被害の程度が大きくなります。この交差点では、直進車からすれば「自分が青なのになぜ無理矢理右折してくるんだ。」ということになり、右折車からしてみれば「全赤のはずなのになぜ減速もせず突っ込んでくるのだ。」ということになります。一旦事故がおきたら軽い方が死ぬ。バイクに乗ることの多い高校生たちにとって、これは非常に恐ろしい信号運用なのです。
車を一台でも多くさばくため考案された信号運用なのでしょうが、安全という面からかんがえると落第点の信号運用です。どうしても右折車を流したい場合は、きちんと対向直進を止めて矢印信号を出してあげるようにすべきです。
■二つ目は、他人の注意力から自分を守る「防衛運転」のお話させていただきます。
私は、自分が車を運転するときヒューマンミスを前提に安全な運転を心掛けています。
これを防衛運転と呼んでいるのですが、「道路交通は他人の注意力に身をまかせるところ」
だから不確実な人間の注意力にまきこまれない運転の癖を身につけようという考え方です。
ようするに「事故が起きにくい癖」を身に付ける。くせになれば特に緊張しなくてもいいので楽に安全 運転ができるからです。これが私の身につけている6ツの癖です。
【9番をお願いします。】身を守る防衛運転
@ゆっくり走る癖 飛び込み事故防止・コントロールを失うスリップ事故防止・見落とし事故防止
A時間に余裕もつ癖 信号無視やスピード超過、無理な追い越しをする必要がなくなる
B停止位置で確実に一時停止する癖 交差する車両、自転車との出会い頭事故の防止
Cゆっくりと直進発進する癖 直前の歩行者、滑り込んでくる二輪車、脇を走行する二輪との接触防止
Dバックミラーを見、ポンピングブレーキをかける癖 相手の注意をひく追突防止
E車間距離を空ける癖 高速道路でのマス事故から少しでも身を守る
これが私の防衛運転、事故に遭いにくい癖ですが
どうぞ皆様方も自分にあったよい癖を身につけ、交通事故からご自分と御家族をお守りください。
8、危険度の高い通学路には分離信号を
■それではお時間も迫ってまいりました。最後に「危険度の高い通学路の交差点には分離信号を」ということで、通学路の交差点に分離信号を要望することをご提案させていただきたいと思います。
I分離信号を要望するには、もう少しこの信号のもつ長所短所を知っておいた方がよいと思われるので
こちらに分離信号の問題点と実益について、箇条書きにしてみました。
【10番をお願いします。】分離信号のもつ実益
■最初に問題点と言われるものを見てみます。常に短所という点で警察が問題にあげるのは、渋滞が発生するとか待ち時間がながくなるため歩行者が信号を守らなくなるという恐れです。でも実際問題、交通の渋滞とは一点を通過する車が飽和状態になるからで歩行者のせいではありません。それにこの問題は歩行者の命の安全をどう捉えるの問題です。いくら車を流したいからといっても「歩行者への安全をおざなりにしてまで車の最大効率を求める」という考え方が、正しいとは思えません。
■また分離信号にすると歩行者が信号を守らなくなるというは、信号無視が出来るような交通量の少ない交差点に設置した場合その恐れがあるわけで、危険な交差点ではその恐れは少ないようです。ようするに、危険だから危ないから分離信号にしてほしいという交差点では歩行者の信号無視という問題はさして大きな問題とは思えません。そのようなことより、分離信号に改善することによって歩行者の安全が高められる実益のほうがはるかに大きいと思います。さらにちがった観点から見てみると他にもすばらしい効用があるようです。
■この交差点は、先ほどの北川辺消防署前の交差点です。ここはこのようにダンプなどの往来が激しい幹線道路にある押しボタン式の分離信号です。ちかくに、中学校と高等学校があるため危険な通学路の改善として典型的な例といえます。
■つぎに分離信号の実益を見て見ましょう
まず 第一に 青信号で右左折車から被害を受けない
第二に 車の運転者が加害者にならない
分離信号は、歩行者の安全だけではなく、車両運転手の安全のためのものでもあるわけで す。
第三に 家族が青信号で理不尽に命を奪われない
道路には無線や携帯片手に無造作な運転をしている人たちも大勢います。危険な交差点構
造を放置することは、他人に自分の家族が殺傷させられる可能性が高いです。分離信号は そのような社会不安をいくらかでも解消してくれるものなのです。
第四に 歩行者保護の教育や啓発が行える
■この四番目の教育的な効用ですが、
高校生というのは、これまで免許をもたない歩行者の立場であったものが、一転して免許を修得して運転手という立場に変わる過渡期の人たちです。この子どもたちが歩行者であったときは、ロシアンルーレットような構造死を放置して気休め教育を繰り返し、その子どもたちが成長し、いざ免許をとる段になって歩行者保護を求めてもそれは虫がよいというものです。歩行者保護教育するのであれば事実そのような環境を作ることが必要です。
この分離信号は、歩行者保護を配慮した本当の交通安全システムです。このシステムで子どもたちを育み、信号のしくみを教えることは、歩行者保護の意識を生むという教育効果が期待できるものと信じています。
このように、分離信号は多少の短所があるにせよ、余りあるすばらしい実益が期待できるのではないかと思います。
ぜひ皆様の学校付近でも分離信号への改善が必要と思われる交差点がありましたなら、PTAを通じ所轄の警察へ陳情書を提出していただきたいと思います。それが本当の交通安全であり、
私たちの安全な生活環境を整えていく一歩となるのではないかと思います。
■そこで一つお願いがあります、ここに一冊の本があります。じつはこの本、私の著書で子どもの命を守る分離信号という本です。資料5に本の紹介をさせていただいておりますが、この本は、生活思想社から出版され一冊1800円です。皆さんに購入して下さいなどと厚かましいことはもうしませんが、本当の意味の交通安全を語る本として、是非とも皆様方の学校図書の蔵書にお願いいたしたいのです。一人でも多くの方がこの本にふれ「分離信号」というものを理解していただくことが歩行者保護の意識を高め、子どもたちの命を守ることだと信じております。どうぞよろしくお願い申しあげます。
今日は、不確実な人間の注意力ということを前提に「道路交通の危険と分離信号の必要性について」お話をさせていただきました。
実は私このような大きな集会でのお話は初めてなので大変お聞き苦しい点があったかと思いますが、なんとか分離信号についてご理解していただけたのではないかと思います。
どうぞ皆さんの手で、分離信号という本物の青信号、歩行者保護の考えを広めて頂き、交差点事故から子どもたちの命を救っていただきたいと思います。
本日はご静聴まことにありがとうございました。