乙(被告東京都)準備書面(三)平成9年1月16日

平成七年(ワ)第二六〇八号

損害賠償請求事件

原告     長谷智喜 外一名 

被告     東京都  外二名

平成九年一月一六日

右被告東京都指定代理人  西道隆
       同     土田立夫
       同     鈴木健一
       同     近藤潔

東京地方裁判所八王子支部

民事第三部御中

準備書面(三)

一 本件信号機の設置管理に瑕疵はない

1 本件交差点は特に危険度の高い交差点とは認められない

(一) 本件交差点の形状、車両及び歩行者の交通量、交通事故発生状況等については、平成八年四月一八日付け被告東京都の準備書面(一)において詳述したとおりであって、本件交差点は、右いずれの点から考慮しても、都内の他の交差点と比較して、特に危険度の高い交差点であるとは到底認められない。

 すなわち、本件交差点は、本件交通事故発生当時、信号機が正常に作動しており、その三箇所に設置された横断歩道及び横断歩道に接した停止線の表示はいずれも比較的新しく、通常の運転をしている運転者であれば、これらを容易に視認することができたほか、各停止線からの前方左右の見通しは、良好であった(乙第三号証)。また、本件交差点を通行する車両及び歩行者も少なく、平成二年一月一日から同八年一二月末日までの間に本件交差点において発生した交通人身事故は、本件交通事故を除き一件であり、それも、本件横断歩道上において発生したものではなかった。

(二) 原告らは、本件交差点周辺から八王子市内に至る間の交差点において、本件交通事故と同種の交通事故が三件発生しており、右三件の交通事故も氷山の一角であるから、本件交差点の危険性は高かったなどと主張する(準備書面(二)、三、甲第九号証)。

 しかしながら、八王子市内の他の交差点において、本件交通事故と同種の交通事故が発生したとしても、そのことから直ちに本件交差点の危険性が認められるものではないことはもちろん、原告らが摘示する三件の交通事故(甲第九号証二枚目「上川橋交差点周辺(美山地区)事故事実について」)は、その最新のものでも本件交通事故から八年前に発生したものである上、いずれも、秋川街道及び戸沢街道上で発生したものではないから、原告らの右主張が失当であることは明らかである。

(三) 右に述べたところからして、本件交差点を、都内に存在する多数の交差点と比較して、歩行者にとって特に危険度の高い交差点であると認めることは到底できない。

2 本件信号機の設置管理に瑕疵はない

 国家賠償法二条が規定する「営造物の設置又は管理の瑕疵」とは、営造物が有すべき安全性を欠いている状態、すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいうのであり(最高裁昭和五六年一二月一六日判決・民集三五巻一〇号二二六九ページ等)、右状態にあるとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に決すべきものであるところ、本件交差点に設置された信号機(以下「本件信号機」という。)は、東京都公安委員会が、本件交差点における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めて設置したものであり、予め調査された交通量(各方向の歩行者及び車両の交通量)に基づいてプログラムを設定し、信号機に内蔵されたコンピューターで信号機の現示秒数を自動的に制御する定周期式(プロ多段式)の機能を備えた信号機であって(乙第四号証、同一六号証)、本件交通事故発生当時、正常に作動しており、安全性を欠くものはないところ、本件交通事故は、被告東京都において既に明らかにしたとおり、もっばら相被告Wの道路交通法に違反した過失によって発生したものである。したがって、本件信号機には、本来それが具有すべき安全性に欠けるところがないのであるから、相被告Wの著しい過失の結果生じた本件交通事故の発生につき、被告東京都がその設置管理者としての責任を負うべき理由はない(同旨、最高裁昭和五三年七月四日判決・民集三二巻五号八〇九ページ)。

二 本件交差点に分離式信号機を設置する必要性はない

1 原告らは、本件交差点に、歩行者が横断中は、車両を全赤とする安全性の高い押しボタン式の分離式信号機を設置すべきであったなどと主張する(訴状請求の原因、第二、3、準備書面(二)、一)。

2 しかしながら、以下に述べるとおり、原告らの右主張は失当であり、本件交差点に分離式信号機を設置する必要性は認められない,

 すなわち、

(一) 都内に存在する多数の交差点に設置されている信号機は、一部を除き、ほとんどが、本件交差点と同様の二現示方式の信号機であって、交差点に信号機を設置する場合は、二現示方式の信号機を設置することが原則なのである。

(二) 二現示方式の信号機が設置された交差点においては、車両が、青信号により右左折する際、横断歩道を横断中の歩行者と相互に干渉することになるが、この場合、車両は、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならず(道路交通法三八条一項)、右交通ルールは、運転者はもちろん、歩行者にも浸透しており、国民一般に定着している。

(三) もっとも、都内の多数の交差点の中には、@繁華街など横断歩行者が特に多い上、斜め方向への横断目的を有する歩行者が多い、AT字交差点、X字交差点などで右左折車両の展開速度が早い、B交差点の見通しが悪い上、歩道が設置されていないなどの事情が認められる交差点が存在することから、右交差点については、当該交差点の形状、交通量、周辺の道路環境などの諸事情を総合的に勘案した上例外的に、スクランブル式信号機を設置したり、分離式信号機を設置して、交通の安全と円滑を図っている。

(四) 原告らが、甲第一三号証において摘示する交差点は、いずれも、右のような特殊事情の認められる交差点であって、例外的にスクランブル式信号機や押しボタン式分離式信号機が設置されているものである。

 すなわち、甲第一三号証に摘示された交差点のうち、「八日町交差点」は@に該当し、「藤橋北交差点」はA及びBに該当し、「元本郷交番前交差点」を除くその他の交差点は、いずれもAに該当する(「城山大橋南交差点」は、T字交差点であるかの如く図示されているが、正確には、Y字状の交差点である。)。

 なお、「元本郷交番前交差点」は、甲第一三号証にも説明されているとおり、隣接交差点からの渋滞車両が交差点内で滞留しやすい上、交差道路から秋川街道への右折車両が多い交差点であり、二現示方式の信号機では、横断歩行者により右折流を確保することが困難となるため、右折流を確保する等の理由から分離式信号機が設置されている。

(五) ところで、本件交差点は、前記一、1のとおり、格別の危険性が認められないため、都内のほとんどの交差点と同様、二現示方式の信号機が設置されており、本件交差点に敢えて分離式信号機を設置しなければならない合理的な理由は認められないのであるから、本件交差点に分離式信号機を設置する必要性はない。

三 結語

 以上のとおり、被告東京都には本件信号機の設置管理に瑕疵はなく、原告らの主張は失当であるから、本訴請求は棄却されるべきである。


書類目次へ